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[ エッセイのようなモノ ]
時計のはなし

1997.11.16

 最近はもうほとんどやらなくなってしまったが、かつてわたしは腕時計を集めるのを趣味にしていたことがある。腕時計を集めるといっても、何十万もするロレックスや今はやりのG−SHOCKのように、価値のある時計を集めていたわけではない。安いものなら三千円程度。高いものでも一万円でおつりが返ってくるような、おもちゃのような腕時計ばかり集めていたのだ。  
 それは文字通りおもちゃのような時計たちだった。  
 はっきりいって、ウケ狙い以外のなにものでもないような腕時計たち。  
 たとえば、これは少し有名だから、知っている人もいるかもしれないが、ラジオ付き腕時計というのがあった。腕時計にジャックが付いていて、イヤホンを差し込むとラジオが聞けるという代物だ。学生ならば授業中、社会人ならば仕事中に、考え事をしているような顔をしてラジオが聞ける、という優れもの。手に入れたのはいいのだが、手に入れたころのわたしには、ラジオを聞く習慣というものがほとんどなかった。しかもそのラジオ、AMしか聞けない上に感度が悪いのだから、始末が悪い。ほとんど使われることはなく、机の引き出しの中で眠り続けて、電池の寿命が尽きてしまった。  
 他にも、ライト付き腕時計というのもあった。文字盤を照らすライトではない。腕時計本体の横に、かなり強力な懐中電灯が付いているのだ。何がすごいってこの時計、時計用の電池の他に、懐中電灯用に単四という非常に小さい電池を入れるようになっていて、実に不格好だった。  
 こいつには、小さなコンパスも付いていた。方位を知ることができる、あのコンパスだ。機能的にも外見からも、明らかにアウトドア用の腕時計であることは間違いない。ビジネスシーンで懐中電灯やコンパスが必要になることがあるとは、とても思えないし、あの不格好な時計がスーツに似合うとも思えない。だがこの腕時計、日常防水機能すらついてなかった。濡れたらアウトなのである。しかも付属のコンパスがこれまたすぐれもので、針がひっかかってちゃんと南北を指さない。キャラメルのおまけにだって、もう少しまともなものが付いてきそうなものだ。  
 こいつは、いつのまにかどこかに紛れ込んでしまった。探せば出てくるかもしれないが、探す気も起こらない。  
 このようにして、わたしが手に入れる腕時計のほとんどは、ギャグのネタには使えても、実用には耐えないようなものばかりで、もちろんメーカーなんぞはどこだかわからない。説明書が英語で書かれているのはまだいい方で、すべて漢字もしくは漢字のように見える字で書かれているものも珍しくない。中には何語だかわからないような説明書がついていたものもあった。今考えると、あれはもしかすると日本語のつもりだったのかもしれない。  
 そんなおもちゃのような時計たちだが、気に入っているものもある。  
 一番のお気に入りは、ホイッスルトークという名前の腕時計だ。こいつは、声で時刻を知らせてくれる。最近では、置き時計でこの手のものがいくつか出ている。  
 最初にこの手の時計を見つけて手に入れたのは、十年ぐらい前だった。その時買ったリストトークという時計は、これはもうれっきとしたSEIKOの品物で、値段も確か一万以下なんてことはなかったと思う。このリストトーク、本来文字盤のある位置をでっかいスピーカーが占めていて、その下に、申し訳程度のデジタル表示が付いていた。このデジタル表示部は、はっきりいって見づらい。だが、ボタンを押せば「何時何分です」と声で教えてくれるのだから、文字盤なんぞ見る必要はない。  
 困るのは、満員電車の中でボタンが押されてしまった時や、映画館でついうっかり腕組みをしてボタンを押してしまった時だが、そんな時のために音声をオフにする機能もちゃんと付いている。マジで優れものだった。わたしは面白さに負けて手に入れたが、よく考えてみたら、目の不自由な人にとっては、非常に便利な腕時計だった。  
 で、ホイッスルトークである。  
 これも、基本はリストトークと同じなのだが、デジタル表示はもっと大きい。ほとんど普通のデジタル腕時計並みの大きさだ。ちょっと見たところ、スピーカーらしいものは目につかない。考えてみれば、普通の腕時計にだってアラーム機能はあるが、明らかなスピーカーなんぞはついていないのだからそれでいいのかもしれない。  
 で、こいつのすごいところは、ボタンを押して時間を喋らせる機能の他に、口笛に反応する機能というのが付いているのだ。口笛を吹くと「ただいまより、午前何時何分をお知らせいたします」と答えてくれるのだ。こいつは便利。  
 何が便利って、ベッドの中にいて、そろそろ時間かなという時に、ちょいと口笛を吹けば応えてくれるのだから、ウケること間違いなし。  
 しかも、リストトークと同じように、音声が出ては困るような場合のために、オフにする機能も付いているのだから、困ることはない。  
 たったひとつの問題が、必ずしも口笛にだけ反応するわけではない、ということ。どうやら似たような波長の音には反応してしまうらしく、あまり声が大きいと....  
 それはともかく、便利なのである。  
 このホイッスルトークは、数年前に王様のアイデアで、三千円ほどで手に入れた。残念ながら、今ではもう扱っていないらしい。わたしの手元にある奴は、バンドは取り替えたがまだまだ元気だ。  
 もうひとつ、非常に気に入っていたのに、壊れてしまった時計がある。  
 この腕時計には、なんとライターが付いていた。ライトではない。それはさっき出てきた。煙草に火をつけるあのライターだ。こいつは便利だった。この時計は、「わたしをスキーに連れてって」という映画のワンシーンでも使われていたから、ご存知の方もいるかもしれない。念のためにいっておくが、わたしはこの映画を見るよりも、時計を手に入れる方が先だった。テレビの情報番組かなにかで紹介されていたのを見て、大喜びで二個買った。二個まとめて買えるほどの値段だった。その分見た目はあまりよくなかったのも確かだ。かなり厚手で、外側はプラスチックというか、ビニールというか。とにかくファッションセンスなんぞというものからは縁遠かった。  
 だが、わたしは非常に気に入っていた。正面の上半分がデジタル表示部だった。その右下にライターの口が開いていて、通常の時計でいえば竜頭のある部分、正面から見ると右側にガスの注入口が、左側にかなり無骨なボタンが付いていて、そいつを押すと火が出る。感じとしては、まるで時間を見るような格好で左手を顔に近づけて、時計に右手を添えてボタンを押して、煙草に火をつける。  
 こいつの利点はふたつあった。  
 まず、ライターをなくす心配がない、ということ。ライターをなくすとか、置き忘れるとかいうことは皆無だったし、いちいちポケットを探って、ライターを取り出す手間がかからないのがよかった。まあ、これはたいした利点ではない。  
 一番の利点は、仕事で打ち合わせをしている時に発揮された。  
 長く退屈な打ち合わせが延々と続き、「いったい今何時だよ」というときに、あからさまに時計に目をやらずに済んだのである。あたかも、「わたしはただ煙草に火をつけるだけですよ」という顔をして、時間を確認することができたのだ。こいつのおかげで、打ち合わせが伸びたこと伸びたこと。  
 ただこの時計、時計の部分があまりにチャチだったため、一度壊れてしまったら修理ができなかった。ライターは健在だが時計が使えなくなってはただの腕ライターだ。そんなものは何の役にもたたない。一時期、こいを腕にはめて、時計は安物の懐中時計を持ち歩いたこともあったが、それもやめてしまった。  
 こいつも、今では手に入らない。たしか、台湾製か韓国製だったと思うのだが。どなたか今でも手に入る場所をご存知ないだろうか。ご存知の方は、ぜひご一報いただきたい。  



2000.04.17 追記

 先日「王様のアイデア」に行ったら、「ライター付腕時計」というのを売っていた。腕時計にライターがついている。かつてわたしが持っていたやつとはモノが違うのだが、コンセプトは一緒である。しかも、わたしが持っていたやつよりもずっとスマートな外見をしている。わたしが持っていたやつはアナログ表示だったが、こちらはデジタル表示という違いもある。値段は約三千円(消費税込み)。思わず買ったのは言うまでもない。おかげさまで重宝しているし、しっかりウケている。  
 まさか「王様のアイデア」の関係者が、ここを読んで作ってくれたとは思えないが、その可能性がまったくないとはいえないだろう。そういう場合は、できれば事前に一声かけてくれるとか、出来上がったものをサンプルとしてわたしに送っていただくと非常にありがたいのだが(笑)  
 ついでに書いておくと。って、べつにサンプル送れという意味ではないのだが(笑)  
 
 今ちょっと欲しいかな、と思っているのは、これの逆バージョン。つまり、ライターに時計がついているやつ。遠い昔に見た記憶はあるのだが、あいにく持ってはいない。できれば、ジッポの腹にちょいと時計がついている、というような奴だとうれしいのだが。そういう商品はないだろうか?  
 ジッポの関係者の方がここを見ていて、ひとつ作ってやろう、という場合には、一声かけていただけば企画に参加する気もあるし、そうでなくても、「こういうのを作ったよ」と送っていただければ、喜んで使わせていただく(笑)  
 もちろん、すでに存在している、という情報だけいただいた場合でも、充分感謝はいたします。ご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報ください。  



2001.01.10

 そうそう。2000年の11月24日付けの「近況」にも書いたのだが、パチンコで時計付きのジッポを手に入れた。で、その後ライター売り場をうろついていたら、違うパターンの時計付きジッポも見つけてしまって。ないときには全然ないくせに、手に入れた後に見つかるってのも、まあよくある話しなんだが。売り値は一万円だった。ただ、デザインがわたしが手に入れた物と少々違ってた。どう違うかというと、わたしが手に入れたのは、ジッポの腹に腕時計のようなデザインの時計が付いている奴なのだが、売り場で見かけたものは、懐中時計っぽいデザイン。大雑把にいうと、竜頭の位置が違う。わたしが持っているものは、竜頭が横についているのに対して、売っていたのは上についていた、と。思わず買ってしまいそうになったのだが、ぐっとこらえて我慢した。あれもなかなか良いデザインなんだが。  
 そういえば、2月にはわたしの誕生日があるんだが……いや、別にプレゼントしてくれなんて、思ってるけど言いませけど(笑)  



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