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1998.04.20
喧嘩を売って来るのはまだいい。何をいいたいのかわからない人が、一番困る。はっきりいって、日本語になっていないのだ。いや、英語やドイツ語でもない。
「ほめぱげのうぺろでができません。ほわい?」
最後の「ほわい?」は、かろうじて「WHY?」だろうということが推察できるが、あとがいけない。「ほめぱげのうぺろで」ってなんだ? 「ほめぱげ」って、ひょっとして「Homepege」のことかい? とわかった時点で、変換ミスか、とも考えたが、そうなると「uperode」がわからない。「うぺろで」って、ひょっとして「アップロード」のことかい? と考えた時点で、すでに解答する気は失せている。あたりまえだ。わたしは「技術サポートセンター」サポートの仕事はしているが、暗号解読の仕事はしていない。質問の内容が理解しにくいのならばまだ我慢もするが、文章そのものがいかれていては話しにならない。
もちろん、タイプミスや変換ミスはそれほど気にはならない。誰にでも間違いはあるのだから。どこか一個所「ほめぱげ」になっていて、他の個所では「Homepage」になっていれば、「ありゃ、変換ミスしちゃったね」と微笑ましく思うだろうが、この人の場合は、「ほめぱげ」が何個所か出てきた上に、「うぺろで」である。変換ミスやタイプミスと解釈するには、あまりにも無理があるだろう。
友達同士、お互いがわかっている間柄ならば問題はないだろう。場合によっては、「PHS」を「ぴっち」と呼ぶように、ある程度世間で通用する単語もある。だが、友達同士の会話じゃないんだから、そんな言い回しは使うべきではないだろう。まあ、親愛の情を込めてくれているのかもしれないが、そんな情なら込めていただかなくて結構。少なくとも見ず知らずの人に初めて手紙を出すのだ、ということをまったく考えていないわけだから、内容の方も相手に何かをちゃんと伝えようという意志はまったく見受けられない。前編で紹介したいくつかの例と同様で、何がどうおかしいのか、全然書いていない。
もちろんこんな場合でも、「言ってることがさっぱりわかりません。できればメールは日本人にわかる言葉でお願いします」なんぞと書くことはありえない。例によって懇切丁寧に、考え得るかぎりのパターンを列挙することになる。このタイプの場合、解答の随所に「ホームページ」という単語と「アップロード」という単語が現れることになる。間違っても「Homepage」とか「Upload」などとは書かない。「ほめぱげ」とか「うぺろで」なんぞと読まれては困るからだ。できれば「ホームページ」と「アップロード」という単語で相手を洗脳してやろうという魂胆であるが、もちろんその計略は成功しない。同じ人が二度目に質問のメールを出してきたときにも、やはり「ほめぱげ」は「ほめぱげ」のままだった。
喧嘩を売っているのでもなく、日本語がおかしいのでもなく、ちゃんと丁寧な文章であるにもかかわらず、非常に困った、ということもあった。
「ホームページのこうかいができません」という一節の入ったメールだった。この場合何が困ったかといえば、もちろん「こうかい」である。ご覧の通りに、ひらがなで書かれていたのだ。これが「公開」なのか「更改」なのかが、前後の文章を読んでも理解できなかった。「後悔」や「航海」ではないことはすぐにわかった。ましてや「紅海」だの「公会」でないことは一目瞭然だ。
この人からのメールの出だしには「当方初心者につき」で始まる一文があって、ホームページはおろか、パソコンについても初心者であることが書かれていた。文章の感じからして多少お年を召した方ではないか、とも推測できた。そうなると、「変更」や「更新」のことを「更改」という表現をしないとも限らない。その人のホームページを確認してみると、ちゃんとアップロードされていて、不都合はない。さて問題は、この人が「公開」したいのか「更改」したいのか、だ。いや、もしかしたら「後悔」したいのかもしれない。
ここまでお付き合いいただいた読者諸兄ならば、わたしがどういう対処を取ったかすでにおわかりだろう。そう、両方書いたのだ。しかし、この時ばかりはさすがに、「「こうかい」が「更改」の場合」と「「こうかい」が「公開」の場合」という文章をはっきり入れる以外に手がなかった。三日三晩寝ないで考えたが(これが嘘だということは、「前編」を読めば一目瞭然)、結局他にいい手を思い付くことができなくて、非常に悔しい思いをした。
さて、前編の冒頭で「愚痴を言う」と書いたが、「技術サポートセンター」サポートの仕事を離れてすでに半月以上が過ぎてみると、じつはわたしはこの手のわけのわからないメールを楽しみにしていたのだ、ということに、最近やっと気がついた。いや、おそらく当時から、心のどこかではわかっていたのだろう。わかりやすい質問のメールが来たときには、うれしい反面、どこかがっかりしていたのは確かだ。
意味不明の質問に対して、いかに嫌味いっぱいにまっとうな解答を出すかに、わたしは生き甲斐を感じていたのかもしれない。
その仕事も、もう終わってしまった。残念なことに、その手のメールを受け取るチャンスはなくなってしまった。さみしいことである。だからといって、そんなメールを送って来られても、わたしはうれしくないので念のため。
※しまった、思ったよりも短く終わっちゃったよ。二つに分けなくてもよかったか(笑)
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