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[ エッセイのようなモノ ]
真・正しい嘘のつき方

1999.03.25

 「アポロ13」という映画がある。アメリカ航空宇宙局(通称NASA)が、前面協力して作られた作品だそうだが、この映画の中に、ロケット打ち上げのシーンがある。このシーンを見たNASAのスタッフが、「こんなフィルム、どこから見つけてきた?」と聞いたとか。つまり、NASAの人間には、その映像が本物にしか見えなかったのである。もちろんその映像は、特殊撮影だった。特殊撮影のスタッフにとって、これほどの誉め言葉はないだろう。  
 特殊撮影を「嘘」という気はないが、うまい嘘にもこれに通じる部分は存在する。こちらの嘘を相手が信じ込んだときには、一種の爽快感がなくもない。  
 もちろん、嘘はよくないことである。特に、それによって相手が損をするような嘘は、ついてはいけない。  
 だが、嘘をつかなければいけないような状況が存在するということも、事実である。余命いくばくもない人に「あなたは死ぬよ」と真実を告げることが、よいか悪いかという大きな問題もある。人からもらったものが気に入らない場合に、正直に「こんなものいらない」というのがいいことかどうか、という身近な問題もある。  
 このように、嘘は確かによくないことなのだが、どうしても嘘をつかなければならないような状況に陥ったときには、やはりばれないにこしたことはない。  
 実はこれは、嘘をつく方つかれる方の、双方にいえることなのである。嘘をつく方にしてみれば、ばれたら大変なのはもちろんだが、嘘をつかれる方にしてみれば、それが嘘だとわかった瞬間に痛手があるのであって、だまされている間は、実は精神的にはそれほど不幸ではないのである。  
 では、どうすればばれない嘘をつくことができるか。方法はなくもない。  
 まず、普段から小さな嘘をちょくちょくつくのである。そして、それが簡単にばれるよ  
うに仕向けるのである。もちろんそれは、ばれても問題のないような、たわいもない嘘でなければならない。  
 そしてそのときに、意識して、小さな癖に見えるようなことをする。わざとそっぽを向きながら話すとか、必ず鼻の頭を掻くとか。それが、嘘をつくときの癖のように、まわりの人間に思わせればいいのだ。  
 そのうちに、まわりの人間は、あなたのことをこう言うようになる。  
 「あいつは、すぐばれるような嘘ばかりいう。しかも、嘘をついてるときには、かならず鼻の頭を掻いてるから、すぐわかる」  
 こうなればしめたもの。本当にばれては困る嘘をつくときには、鼻の頭を掻かなければいいのだ。  
 その嘘も、ないことを「ある」というような、証拠を求められたら困るような嘘ではいけない。持っていないものを「持っている」といったり、行ったことのない場所に「行った」というような嘘は、すぐばれる。その手の嘘は、ばれてもいい、布石の嘘のために使用する。  
 逆に、あることを「ない」という場合にも、注意が必要になる。持っているものを「持っていない」といってしまった場合、しばらくしてから「やっと手に入れた」と嘘をつく必要も出てくるかもしれない。面倒臭いと思うかもしれないが、このように、ばれないように嘘をつくには、多大な労力を必要とするのだ。本気で嘘をつくときには、それを覚悟しなければならないのである。  
 今回の文章、わたしが気づかない間違いはあるかもしれないが、意識して書いた嘘はまったくない。だが、書かなかったことは山ほどある。全てを書いてしまったら、今後わたしが困るからだ(笑)  



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