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[ エッセイのようなモノ ]
体の不思議

1999.04.14

 世の中には、何でこんな名前になったんだろう、と思う名前がたくさんある。たとえば体の各部分にしても、おかしな名前のつけ方が結構あるのだ。  
 指の名前で、薬指というのが、薬を扱うときにこの指を使うから、ということになっているが、これが非常に不思議である。いや、この指で薬を扱う、ということに異議をさしはさむつもりはない。あいにくわたしは、あまりこの指で薬を扱うことはないのだが、多少毒性があるかもしれない薬を、他のことにも使う可能性の高い親指や人差し指で扱うとは思えない。実は、普段の生活の中で、この指が一番活躍しない指なわけだから、安全性を考えてみれば、薬を扱うのはこの指が一番いい、ということは想像できる。この想像があっているかどうかは、知らないが。  
 それにしても、である。  
 この指が「薬指」と命名されたのが、どのぐらい昔のことなのかは知らないが、その当時、薬を扱うというのは、そんなにポピュラーなことだったのだろうか? 誰にでもある体の部品のひとつの名称となってしまうほど、多くの人が薬を扱っていたのだろうか? それはちょっと考えられない。おそらく、ごく一部の人だけが、この指を使って薬を扱っていたのだろうと思うのだが、それがなぜ広く一般にまで浸透したのか、これが非常に不思議なのである。  
 そういえば、親指を除いた四本の指を、まっすぐのばしてそろえたときに、人差し指よりも薬指の方が長い男は絶倫だ、というはなしを聞いたことがある。本当かどうかは知らない。ちなみにわたしは、薬指の方が断然長い。  
 それはそれとして、指だけでなく、手全体を見たときに、通常、表側を「てのひら」といい、裏側を「手の甲」という。逆ということはたぶん、ないと思う。そこで、いっきに視線を下におろして、足を見てみよう。足の場合、一方の面は「足の裏」もう一方が「足の甲」となる。手と対比してみればわかるように、手の甲が裏側だとすれば、足の甲は足の裏側ということになるのだが、その反対側が「足の裏」ということになっている。足には表がないわけだ。もしかしたら、メビウスの輪のようなものなのかもしれない。気をつけて歩かないと、四次元空間に落ち込んでしまうかもしれない。  
 ひょっとすると、「てのひら」が手の表側である、という考え方に誤りがあるのかもしれない。広辞苑によれば、「てのひら」とは手首から先の、内側の面。手のうら。ということになっている。  
 ということはやはり、手は甲の側が表になるわけだ。わたしの勉強不足でした。広辞苑の「手の甲」を見れば、ちゃんと「手の表」と書いてある。ならばはなしはわかる。足は甲の側が表で、ちゃんと裏表があったわけだ。これで安心して歩くことができる。  
 ただそれでいくと、亀を例にあげるまでもなく、体全体の表裏は、背中側が表、お腹側が裏ということになる。つまり、顔が裏で後頭部が表ということになるわけだ。いまひとつ釈然としない。  
 ただ、一般的に四つ足の動物は、常に背中を外に向けているわけだから、そちらが表になる、という理屈は納得できる。だが、どうしても、顔が裏側というのが、理屈にあわないような気がするのだが、どうだろう。  
 顔という意味もある「面」という言葉には、ご存知のように「おもて」という意味もあるのだが、この場合「顔=面=おもて」という数式は成り立たないらしい。  
 今回のエッセイにオチはない。  



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