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[ エッセイのようなモノ ]
夏が来た

1999.07.22

 いつの頃からそうなってしまったのかわからないが、わたしは夏があまり好きではない。まあ、嫌いというほどではなく、せいぜい苦手というぐらいのものなのだが、どうも好きになれない。  
 夏と冬のどちらが好きか、という質問にはいつも、冬が好きと答えている。その理由ははっきりしている。冬はたしかに寒いが、厚着をすることもできるし、動けばなんとかなる。しかし夏は、薄着をするにも限度があるし、なによりも、じっとしていても暑くてしょうがないという、なんともみもふたもない理由なのだが。  
 もっとも、子供の頃はそんなことはなかったはずだ。毎年夏休みは待ち遠しかったし、夏の暑い盛りに、一日中外で遊びまわっていたのも覚えている。プールで泳ぎ、道路で駆け回り、今考えれば、かなり無駄に元気だった気がする。当時はクーラーなんぞというものは、デパートか銀行か、そんなところにしかなかったが、涼を求めてそういうところを徘徊した記憶は、あまりない。もちろん、夏休みの宿題などというものをやった記憶はほとんどない。はっきりいって、まるでない、といってもいいかもしれない。  
 子供は風の子、などというけれど、夏は夏で、炎天下をものともせずに走りまわったりするのだから、子供の体力というのはすごいものである。  
 わたしがいつから夏が好きでなくなったのか、記憶ははっきりしていない。だが、今なぜ夏が苦手なのかという理由は、はっきりしている。汗をかくからだ。わたしはよく汗をかく、いわゆる汗っかきというやつなのである。  
 そもそも、冬場でも手のひらにうっすらと汗をかくことがあるほどの汗っかきで、手袋なんぞしようものなら、蒸れてしょうがない。それほどだから、夏場はもっとすごい。外から帰ったあとや、一晩寝たあとなど、襟のまわりが、まるで洗濯したばかりのようになる。  
 夏はこれがいやなのだ。  
 なぜそんなに汗をかくのか、自分でもわからない。よく「太っていると汗をかきやすい」というが、わたしは特に太っているということはない、と思う。昔に比べれば肉はついたが、まだ太っているという範疇には入らない、と思いたい。だいたい、痩せていた頃から汗っかきだったのだから、太いか細いかは、関係ないだろう。  
 仕事に行くために、駅まで歩く。歩いている間は、どういうわけかそれほど汗をかかないのだが、駅について立ち止まったとたんに、どっと汗をかく。で、その状態で冷房のきいた電車に乗ったりするわけだから、今度は寒くなる。  
 しかも、だ。  
 夏に汗をかくのは、わたしだけではない。他の人も汗をかく。満員電車の中で、何がいやだっていって、オヤジの汗ばんだ腕ほどいやなものはない。女性はもちろん、鳥肌が立つほどいやだろうが、男だって背筋が寒くなるほどいやなのだ。ところが、実際にはわたしが、その汗ばんだ腕のオヤジになってしまうわけだから、これほど悲しいものはない。  
 相手が美人だったりすれば、「なに、このオヤジ?」と思われたくないから、美人じゃなかったり、相手もオヤジだったりした場合には、なおのことこっちもふれあいたくないから、どっちにしてもふれあわないように努力する。満員電車の中でふれあわないようにするのは、無駄な努力というものだから、そういう努力は放棄して、結局上着を着たままでいることになる。そして、なおさら汗をかくわけだ。  
 女性の露出度がアップする、というプラス面を差し引いたとしても、やっぱり夏はいやだ。なにしろ、男の露出度までアップしてしまうのだから。  



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