縦書きで読む
[ エッセイのようなモノ ]
鬼が笑う

1999.12.15

 今年もそろそろ終わりに近づいてきた。そういう場合よく「さて、来年は」などという話をしたりするのだが、来年のことをいうと鬼が笑うのだそうで。鬼が笑った結果、いったいどういうことになるのか、あいにくわたしは知らないのだが、もし本当に、来年のことをいうと鬼が笑うのだとすると、このところ世間を騒がせている2000年問題の話題のおかげで、鬼は大笑いして腹がよじれて、今ごろは笑い死にしているに違いない。そうなると、来年は鬼がいないことになって、節分で豆をまいて追い出すまでもなく、平和な一年になるに違いないと思うのだが、いかがなもんだろう。  
 もともと鬼というものは架空の存在のはずで、それが泣こうが笑おうが知ったこっちゃない、という意見もあるだろうが、そういうことをいってしまうと、今回のエッセイのようなモノの話しが進まなくなってしまうので、それはここでは棚上げする。ことによると、鬼が架空の存在だ、という考えに異議を唱える方も、いらっしゃるかもしれないことだし。なんせ、うちの嫁さんがどうやらそうらしいとか、うちの女房は間違いなくそうだ、という人が、世の中には大勢いるのだから。  
 総理府の調査によれば、世の奥様たちの約90%が「常に鬼」もしくは、「場合によっては鬼に変化する種族」なんだそうである。まあたしかに、結婚して相手を一生いじめ抜いてやろう、などと思いつくのは、鬼以外のなにものでもないだろう。ちなみに、世の旦那様たちの、なんと95%が、「常にろくでなし」なのだそうだが。  
 それはそうと、鬼と聞いて思い出すのが、桃太郎やこぶとり爺さんなどの昔話である。余談だが、これまた総理府の調査で、「こぶとり爺さんのはなし」を「ちょっと太った爺さんのはなし」だと思っている人が、百人に一人ぐらいはいる、ということがわかっているらしい。  
 で、よくよく考えてみると、昔話に出てくる鬼というのは、基本的に悪い奴ではない。こぶとり爺さんに出てくる鬼だってそうだし、泣いた赤鬼に出てくる鬼なんぞは、善人の代表みたいなものだ。桃太郎に出てくる鬼たちなど、遠く離れた鬼が島で、ひっそりと暮らしていたのが、ある日いきなり動物を連れた変な奴に襲撃を受けて、ひどい目にあった。どう見ても被害者としか思えない。これも総理府の調査結果なのだが、その手の昔話や伝承の中で、実際に鬼が悪行三昧をしているものは、全体のうちのわずか3%にも満たないのだそうである。あとのおはなしに出てくる鬼たちは、ほとんどみんな良い奴。  
 そう考えてみると、世の奥様たちが実は鬼である、ということは、つまり世の奥様たちが実はみんな良い人である、ということになるわけだが、世の旦那様たちの中で、何人の人がこの意見に賛成してくれるか、疑問が残るところである。  
 そうはいっても、ここまでの論理の展開上、実は鬼が良い奴だ、ということは変えようがないし、その結果「鬼であるうちの女房」が良い人であるという結論に落ち着いてしまうのも、しかたのないことだろう。しかたがない、というよりも、95%にもおよぶ「ろくでなし」の面倒を、たとえ文句を言いながらでもみている奥様たちは、どう考えても悪い奴ではないのである。それどころか、天使のような人々、ということになってしまうのである。残念ながら、異議を挟む余地はない。  
 ただし、今回の文章の中に出てきた「総理府の調査」の結果は、すべてでたらめなので、論理の展開も大嘘ということになるし、その結果導き出された結論も、もちろん大嘘ということになるので、念のため。  
 つまりどういうことになるのかは、あまり深く考えないように。特にそこの奥さん。あなたですよ、あなた。考えちゃだめだってば。  
 その笑い、鬼のようですぜ(笑)  



Copyright(c) 1997-2007 Macride
ご意見ご感想は メール 掲示板