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[ エッセイのようなモノ ]
タイムマシンにお願い

2000.03.16

 かつて。  
 かなり昔のこと。人が空を飛ぶ、などということは、夢のまた夢だった。空を見上げて「鳥のように空を飛びたい」なんてつぶやこうものなら、「馬鹿なこといってねぇで、さっさと仕事しちまえ」ぐらいのことは言われただろう。それが今や、機械や道具や乗り物を使ってとはいえ、人は空を飛ぶことができるようになった。空どころの話しではない。地球を飛び出して、宇宙へ行ったりもしている。かつては夢のまた夢だったのに、だ。  
 ということは、「過去に戻りたい」なんてつぶやいた場合、今はまだ「おうおう。戻れ戻れ。戻って二度と帰ってくんな」かなんか言われちゃうかもしれないが、いつかはきっとできるようになるに違いない。  
 SFの世界では、H・G・ウェルズというおっさんが、かなり昔に「タイムマシン」というお話しを書いている。このお話しでは、過去に戻るのではなく、主人公は遠い遠い未来へ行った。遥かな未来が人間にとって幸せな世界だったかどうか。それは「タイムマシン」という小説を読んでいただくとして、今回は時間旅行のお話し。時間旅行が可能かどうか、という大前提は、ここでは考えない。そんなものは、どこかの学者が考えればいいことで、我々がやるべきことは、どこへ旅したいかを考えることである。そう。特に行く予定も金もないのに、旅行代理店の店頭からフランス旅行だのアメリカ西海岸の旅だののパンフレットを山のように取ってきて、とりあえず眺めてみる、あれと同じだ。  
 ただし。ご存知の方はご存知だろうと思うが、時間旅行には、「タイムパラドックス」というものがつきまとう。ご存知でない方のために、一応説明しておこう。  
 タイムマシンに乗って、過去に戻るとする。とりあえずは、自分が生まれるよりも何年か前に戻ってみる。そこで、自分の父親と出会い、何かの拍子に父親を殺してしまったとしよう。するといったいどうなるか。  
 まず、自分が生まれるよりも前に、自分の父親が死んでしまったのだから、当然自分は生まれてこなくなる。生まれてこなかった、ということは、過去にも戻れなくなる、ということだ。生まれてこなかった自分は、過去に戻れないわけだから、そこで自分の父親と出会うこともなく、父親を殺してしまうこともない。そうすると、やがて自分が生まれてくることになり。その自分はいつか成長してタイムマシンに乗り、過去に戻って父親を殺す。で、父親が死んでしまったら自分は生まれてこないわけで……  
 以下、これが延々と繰り返されることになるわけだ。これがタイムパラドックス。  
 これを前面に押し出して作られた映画が、マイケル・J・フォックス主演、ロバート・ゼメキス監督の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」という作品だ、ということは、ご存知の方も多いだろう。  
 このタイムパラドックスに対して、色々な学者やらSF作家やらが、色々な答えを出している。まあ、今のところは、正解がはっきりしているわけではないので、正しくいえば答えではなく、仮説とか推測の域を出ていないのだろうが。  
 数ある仮説の中で、もっとも秀逸な考えは、過去に戻って自分の父親を殺しても、自分はちゃんと生まれてくる。なぜならば、本当の父親は実は隣のおじさんだから。というのがあるが、これはまあギャグなので置いておく。  
 そこから時間の流れが枝別れして、別の歴史が始まるが、自分が生まれた歴史は、すでに流れてしまっているので、自分が消えることはない、というものもある。同じような感じで、自分が戻る過去は、結局自分がたどって来た時間の流れとは別の流れになるのだ、という説もある。あるいは、宇宙そのものが崩壊してしまう、とか、その人物の時間の流れだけが永久ループを繰り返すだけで、大きな流れに影響はない、とする意見もある。  
 まあ、なんにしても、あんまり考えていると頭が痛くなってくるし、結局結論はでないのだから、深く考えるのはやめにしよう。  
 ただし、ここにひとつの見事な推察がある。この意見によると、未来永劫タイムマシンが完成することはないということになる。少なくとも、すでに終わってしまっている過去に戻ることができるタイムマシンは、絶対に作られることはないだろう、という説である。  
 その説に曰く。  
 もし、未来のいつの日にかタイムマシンが完成したとして、それで過去に行かれるのだとしたら、彼らはすでに我々の前に現れているはずである。だが、これまでに一度として、タイムマシンに乗って未来からやってきた、という人が現れたことはない。だからタイムマシンは完成しない。  
 みごとな説だとは思うが、おもしろくない。おもしろくないので、却下させていただく。  



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