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[ エッセイのようなモノ ]
新・質問と回答のサンバ

2000.05.31

 ときどきわたしのところに、ある種の電話がかかってくることがある。相手は知り合いである。男の場合もあるし、女の場合もある。共通するパターンはその第一声。ほとんどの場合「ちょっと教えてほしいことがあるんだけど」ではじまる。多少言い回しが違うことはあっても、内容はほぼ同一である。そこでわたしは「ほら来た」と思うわけだ。あるいは「またかい」とか。場合によっては「高いよ」と返事をすることもある。慣れた相手ならば、わたしのセリフなんぞ無視して話しを進めちゃったりするわけだが、不慣れな相手だと「そんなこと言わないで」などと泣きを入れてくる。もし逆にわたしが「高いよ」と言われた場合には「何メートル?」などと、わけのわからないことを聞き返したりするのだが、そういう人はまずいない。  
 で、なんだかんだ前置きがあったりなかったりしながらも、やがて会話は本題に入る。おおむね「エクセルなんだけど」とか「ワードのことで」とか、パソコンソフトの使い方に関する質問なのである。場合によっては「印刷ができないよぉ」と泣きついてくる相手もいるし、パソコンそのものの使い方を聞いてくる場合もある。  
 ひどい奴になると、客商売をしていて、目の前にお客さんを待たせたまま、携帯電話でわたしに電話して来る奴もいる。その場合は、当然いつもと口調が違う。普段ならば「悪い、ちょっと教えて」なのに、そういうときには「ちょっとお聞きしたいことがあるんですが」となる。わたしも勘の悪い方ではないので「なんだい、仕事中かい」と聞き返すと、ごていねいにも「はい。今お客様がお待ちでして」かなんか返事が返ってきたりする。むこうは目の前にお客さんがいるわけだから、雑な言葉を使うわけにはいかないのだ。おもしろいので、わたしはなるべく雑な言葉を使うようにする。そのおかしなやり取りを他人に聞かせられないのが、非常に残念だ。  
 念のためにいっておくが、わたしはサポートセンターのお兄さんではない。「そう、正しくはサポートセンターのおじさんだね」という突っ込み方はもちろん正しいが、この際却下する。なんにしても、本来わたしには答える義務はないはずである。  
 だがしかし、そこはそれ。根が優しいマックライドさんのことである。「誰だよそれは」という声が聞こえてくるようだが、この際それは無視することにする。  
 とにかく優しいマックライドさんは、丁寧に答えてあげちゃったりするわけだ。それが夜自宅にいるときだったりすればいいのだが、場合によっては真っ昼間、仕事中に携帯電話にかかってくる場合だってある。たぶん相手も仕事中で、仕事に使うエクセルだのワードだのがうまく使えないとか、その他なんらかの困り事なのだろう。すぐにでもなんとかしたいのだろうという気持ちは良くわかる。しかしそういう場合、おおむねわたしだって仕事中だったりするわけだ。まあ、わたしの場合、就業時間中であることと、実際に仕事をしているかどうかということとは、また別な問題だったりするのだが、とにかく通常は仕事中のはずである。そんなときに「エクセルがおかしくなった」なんていわれても、普通は対応しない。繰り返すが、わたしの現在の職業はサポートセンターのお兄さんではないのだ。もちろんサポートセンターのおじさんでもない。  
 しかし、わたしの目の前にはどういうわけかパソコンがあったりする。しかもマックライドさんは優しい。で、目の前のパソコンを操作しながら、相手と同じような状態にしてみたりして、対策を教えてあげちゃったりする。なんて優しいんだろう。だれも言ってくれないから、自分で言うしかない。  
 で、おもしろいことに、その手の質問をしてきた相手というのは、当然といえば当然のことなのだろうが、問題が解決したらすぐにでもその続きの作業を始めたいわけだ。ということは、用が済んだらさっさと電話を切るということになる。とりあえず、親しき仲にも礼儀あり、という言葉ぐらいは知っていると見えて、電話を切る前にお礼の一言ぐらいはある。場合によっては、落ち着いてから電話なりメールなりでお礼を言ってくる者もいる。だが、一度としてお礼の付け届けが届いたことはない。ましてやわたしの銀行口座に金が振り込まれたことなどあるはずもない。まあ、場合によっては、なにかのついでに「あのとき世話になったから」とメシぐらいおごってくれる場合もあるが。  
 下手をすると、そのまま何も言ってこなかったりもする。次に電話がかかってきたときには、またしても「ちょっと教えて」なんぞと言ってきたりする。完璧にわたしをサポートセンターのお兄さんだと思っているらしい。サポートセンターのおじさん、だと思っていたら、ただじゃぁおかねぇぞ。  



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