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2000.06.08
少し前のことになるが、椅子に座ったわたしの後ろを通りかかったうちの母親が、何気ない口振りで「つむじのあたり、だいぶ薄くなって来たねぇ。地膚が見えてるよ」と、のたまった。「それってひょっとして、はげてきたって言ってるのか?」と思ったが、そのときは実はそれほど気にしなかった。なにしろうちの家系は、髪の毛が多い家系らしく、どちらかといえば、髪が多くて困ることの方が多いのだ。ところがそれから数日後。わたしは髪を切りにいった。で、そこで言われたのが「髪質変わりましたねぇ」だったから、わたしは内心ギクッとしながらも、できるだけ平静を装って、 「どう変わりました?」 「少しやわらかくなりましたよ」 「それって、このまま行くとはげるよ、ってことですか?」 「今すぐってことはないと思いますけど」 「近いうちに、ってことね」 と母親にいわれた内容を伝えた。 「薄いっていうよりも、髪が細くなって地膚が見えるようになったって感じですよね」 「はげるとか、はげてるってことじゃぁ、ないんですか?」 「とりあえず、今ははげてるわけじゃないですけど、将来はあぶないかもしれませんね」 「手入れとかした方がいいんですかねぇ」 「今のうちから手入れしておけば、まず大丈夫ですよ」 ってな会話があって、結局わたしは髪の手入れをすることになった。別にばあさん(母親)の言うことは聞かないが、若い女性の言うことは聞く、ということではない。決してそういうことではない、と思うが自信はない。 とりあえず、なんとかいう育毛剤を使い始めたのはいいのだが、なんせ生まれる前からの不精者。そのうえ、頭頂部のことときて、本人の目にふれないんだから、始末に悪い。結局いつのまにやら手入れはしなくなっていた。考えてみたら、頭の毛が薄くなるってのは、いったい何が問題なんだろう。早いはなしが「はげてちゃいかんのかい!」ってことである。たとえば若禿げなんぞは、やっぱり気にする人もいるだろう。だがある程度の年齢になって、それなりに頭髪が薄くなってくるのは、そりゃ自然の摂理ってものじゃないんだろうか? 木だって枯れてくれば葉は落ちる。常緑樹ってのもあるが。髪が薄くて生活や業務に支障をきたすのは、髷を結えなくて困る関取ぐらいのものだと思うのだが、いかがなもんだろう。 ところが、海外ではどうだか知らないが、少なくとも日本では、はげは罪悪のように扱われることが多いようである。だいぶ前のテレビのCMなのだが、中学生か高校生ぐらいの女の子が、こちらに向かって「お父さんもお兄ちゃんも、それじゃあわたしがかわいそう」と言い放って終わるかつらメーカーだかなんだがのCMがあった。つまり、頭髪の薄い人に向かって、あんたのその頭、恥ずかしいんだよ、といっていたのだ。わたしはそれまで、その手のメーカーのCMを気にしたことはなかったが、さすがにそのCMには不快感を覚えた。物を投げつけたくなった記憶がある。あれで宣伝効果はあったのだろうか。宣伝効果がなかったからかどうか、最近のその手のメーカーのCMは、どちらかといえば「恥ずかしくなんかないんですよ」という雰囲気にしているようには見える。嘘か本当か、白衣を着た奇麗なおねえさんたちが、親身になってケアをしてくれるようである。爽やかな雰囲気である。だがよく見れば、実際には頭髪が薄いことを恥ずかしくない、といっているのではなく、あくまでも「当社においでいただくことは、恥ずかしくないんですよ」といっているに過ぎないのだ。 で、不思議なことに、同じメーカーが出している女性用のかつらなんぞは「ファッションなんたら」だったりするのである。「髪にボリュームを持たせたいときに」とか言ったりする。間違っても、だんなさんや息子さんが画面に向かって「それじゃあ俺がかわいそう」なんていうことはない。その場合、ほぼ確実にその商品は売れない。 これってよく考えてみると、明らかに不当な差別なんじゃないだろうか。男性だけ辱めている、という部分は、完璧に性別による差別だし、頭髪が薄いというただそれだけのことで、まるで社会の落伍者のような扱いをするのは、体の不自由な人をそういう目で見るのと大差ないような気がしないでもない。 とまあ、こんなことを書いたところで、わたし自身がはげているのでなければ、はげの方々からは「おめぇなんぞに俺達の気持ちがわかってたまるか」といわれてしまうだろうし、もしわたしがはげているのであれば、はげていない方々から「負け犬の遠吠えか?」といわれてしまうのがオチなのだろうが。 わたしの髪は、今のところまだ多い。 |
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