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| 忘却とは忘れ去ることなり |
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2000.08.11
最近は、惰性でやっているせいだろうか「前回のエッセイのようなモノに何書いたっけ？」というようなことがよくある。って、おいおい（笑）まあ、かれこれ九十本もこんな文章を書いていれば、ひとつやふたつは記憶に残らないものもあるのだが、最近はその傾向が強くなってきたような気がしないでもない。人はこれをボケと呼ぶのだろうか？ もちろんボケったって、相方がいて、裏拳で突っ込みを入れてくれるようなボケではない。わかってるって？ そりゃそうだ。 「ぼける」という字と「ほれる」という字が、漢字で書くとどちらも「惚」になる、ということを知ったのはいつのことだったろうか。辞書によれば「ぼける」というのは「物事の判断ができなくなること」という意味だそうだ。そういう意味では「ほれる」というのも確かにそういう一面があるから、これはこれで正しいのだろう。 と、こういうどうでもいいようなことはちゃんと覚えている。こういうのとは違うどうでもいいようなことを忘れてしまうのである。わかりにくいか。さすがに、飯食ったかどうかを忘れるとか、自分の家族の顔や、自分の家を忘れてしまうようなことはない。前回書いたエッセイのようなモノの内容を覚えていなかったり、読んだ本の内容が記憶に残っていなかったりと、その程度のことだ。 まあどっちにしても、わたしの人生自体、どうでもいいようなことしかないのだが。 これがボケかどうかは別にして、最近たしかに記憶力が落ちているような気がする。 本を読んでも記憶に残らないのは、読んだ本がおもしろくなかったからだ、とその本の作者に責任をおしつけることもできる。ただ、読んでいる最中にはおもしろかった記憶があるにも関わらず、読み終わって一週間もしないうちに、内容が曖昧になっているのに気づいたときは愕然とした。 人と話しをしてもすぐに忘れる。最近のわたしの口癖に「この話ししたっけか？」というのがある。誰かに話したような気がしないでもないのだが、その相手にしたかどうかがはっきりしなかったり、本当に誰かに話したのかどうかも自信がなかったり。そんなことが多くなった。これはやっぱりボケの始まりなんだろうか？ と、そんなことを心配していても始まらない。ボケたらボケたで、イヤなことも忘れるだろうから、それはそれで楽かもしれないし。だいたい、忘れるといっても、前回のエッセイのようなモノも、書き出しを読めば内容を思い出す程度の忘れ方だし。本もぱらぱらとめくって見れば、大体のところは思い出す。まあ、そんなに気にすることでもないだろう。ということにして自分のことは棚上げする。 また聞きの話しでもうしわけないのだが、わたしの知り合いの同僚で、かなり物忘れのひどい人がいるらしい。 その人は、前日自分が言ったことを忘れる、などというのはあたりまえなのだそうだ。普通は、たとえ忘れてしまっても、話題にのぼれば「ああ、そんなこといったような気がする」ぐらいには思い出すものだろう。少なくとも、何回かに一回ぐらいは「そういえば言ったなぁ」程度にはよみがえってくるはずだ。ところがその人は、完璧に忘れているのだそうである。「そんなこと言った？」ぐらいならまだしも、自分が言ったことなのに、いつのまにか他の人が言ったことになっていたり、ひどいときには他人が言ったことを自分が言ったことにしてしまうこともあるという。 まあ、そうなってくると、物忘れがひどいとかなんとかいう問題ではないと思うが。 たしか、作家の都筑道夫の体験でも、そんなのがあった。タクシーに乗って、しばらく運転手と話しをしていて、その後運転手が運転に集中したために会話が途切れたあとに、運転手が会話を再開して「さっき乗せたお客さんから聞いた話しなんですけどね」と始めた話しが、さっきまで自分がしていた話しだった、という。これはたしか、小説にも使っていたはずである。 と、わたしもこういうことは、ちゃんと覚えている。こうやって考えてみると、わたしの記憶力もなくなったわけではないらしい。 一説によると、ひとつひとつのことに集中していないから忘れるのだ、ということらしい。そのときそのときにちゃんと集中していれば、そうそう忘れることはないのだそうだ。 たしかにそうかもしれない。そういう意味では、記憶力の衰えというのは、集中力の衰えとも言えるのかもしれない。 だが、少なくともわたしは、今この文章を書いている最中には、この文章に集中している。なのに、すでに前半何を書いたか覚えていないのだ（笑）ましてや、来週まで覚えていられるかどうか（笑）内容だけならまだしも、書かなきゃいけないってことまで忘れていたらどうしよう。 |
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