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[ エッセイのようなモノ ]
怪談考

2000.08.16

 夏と言えば怪談、怪談と言えば夏である。なぜだか知らないが、日本ではそういうことになっている。夏休みに、キャンプに行ったり合宿をしたりしたときに、夜恐い話しで盛り上がる、というのは欠かすことのできない行事であるらしい。梅にうぐいす、コーヒーにクリープ、キャンプや合宿に怪談、エッセイのようなモノに間抜けなオチなのである。  
 恐い話しの舞台として、ポピュラーなものはいくつかあるが、ベスト5はやはり墓場、学校、病院、トンネル、旅館といったところだろうか。ほかにも深夜の街角とか、自分の家などというのもあるだろうが、数の多さ、バリエーションの多さの点でも、このベスト5にかなうものはないに違いない。  
 墓場はまあ、舞台としてはもっともな場所だろうし、病院も死が近くにあるという意味ではわからなくもない。が、他の場所に関しては、なんでだろうという気がしないでもない。もっとも、学校もの、病院もの、旅館ものは、同じようなパターンになる場合も多い。学校ものの場合には、シャレではないだろうが、階段が舞台になる怪談が多い。あとは理科室、音楽室、体育館あたりが三強だろうか。誰もいないはずの教室から、声だの物音だのが聞こえてくる、というシチュエーションがかなり多い。  
 音楽室で思い出した。中学の時だったか高校のころだったか忘れたが、放課後の音楽室にいたときの話しである。教室の後ろの方にいたわれわれの耳に、かすかなピアノの音が聞こえてきたことがある。ピアノは教室の前の方にある。もちろん、誰もピアノなど弾いてはいない。にもかかわらず、教室の前の方から、つまりはピアノのあたりから、間違いなくピアノを奏でている音が聞こえてくるのである。勇気のある者が、意を決して近づいて行った。教室の一番前までたどり着いたとき、いったい何があったのか、彼は突然大声で笑いはじめたのだ。不安に膨れた顔を見合わせていたわれわれにむかって、彼は黒板の上の方を指差してみせた。そこには校内放送用のスピーカーがあり、音はそこから流れていたのだった。わたしが体験した怪談なんて、こんなものである。  
 病院が舞台の場合も、誰もいない病室で声がする、といったような、学校ものに近いパターンが多い。以前入院したときに看護婦さんから聞いたはなしだが、宿直の時に一番恐いのが、ナースコールなのだそうだ。入院患者が誰もいないのにナースコールが鳴ったときが一番恐い、ということである。それが実際にあったことなのか、そうなったら恐いなぁ、という話しだったのかは聞き損ねてしまった。  
 旅館もののトップは、窓の外を人が通ったが、後で見てみるとそこは切り立った崖だった、というのが多いようだ。あとは、対応してくれた宿の人が、実はすでに死んでいる人だったとか、壁の染みがどうのこうのとかいったパターンが多い。夜中に目を覚ましたら、枕元だの足元だのに何かがいたというパターンは、旅館ものに限らない。自宅だろうが病院だろうが、ふと目を覚ましたら、というジャンルに属する。  
 トンネルが舞台になる場合は、おおむねそこで事故があって死んだ人の霊である場合が多い。その事故がトンネル工事中のものである場合と、交通事故である場合の違い程度の問題だろう。  
 このあたりになってくると、トンネルものというジャンルにするべきか、自動車ものというくくりにするべきかは、難しいところである。車ものの中には、タクシーものというジャンルもあるが、これはおおむね同じパターンになるようで、乗せた客が消えてしまって、後にはシートが湿っていた、というものが多い。まれに、乗ったタクシーが恐かった、というような話しもあるようだが、幽霊の運転するタクシーに乗った、という設定にかなり無理があるのだろう、あまりポピュラーではないようだ。  
 舞台のほかに重要な要素として、時刻というのがある。時刻としては、おおむね深夜になるだろう。場合によっては、真っ昼間の歩行者天国のど真ん中で、血まみれの子供がフラフラしているのに気がついて、心配して声をかけると「おまえには俺が見えるのか」と恐い声を出す、といったパターンもあるようだが、怪談のほとんどは夜の話しである。  
 最近は24時間営業のコンビニエンスストアなんぞもあるわけで、つまりは深夜に人がいたりするわけだから、そういう場所が舞台になった怪談、幽霊やら正体不明のモノの目撃談があってもよさそうな気がするのだが、あいにくわたしは聞いたことがない。ああいうところは、幽霊が出るには明るすぎるのだろうか。まあ、おそらくはわたしが知らないだけで、コンビニを舞台にした怪談もきっとあるのだろう。しまったオチがない。  



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