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[ エッセイのようなモノ ]
おらがの行くとこどこだんべ

2000.09.07

 どういうわけだか知らないが、わたしはよく道をたずねられる。家の近所だろうが初めて行った場所だろうが関係なく、わたしに道を聞いてくる人がけっこういるのだ。  
 わたしが初めての場所でも自信ありげに歩いているからか、人畜無害のお人好しに見えるからか、それともよっぽど暇そうに見えるのか。そのあたりの理由はさだかではない。まあたしかに、若いおねぇちゃんが道に迷った様子で困った顔をしていたら、思わず「大丈夫かなぁ」と見つめちゃうわけだし。って、見つめちゃう理由が、それだけとは思えないフシもあるのだが。お年寄りやお子さんが困っている様子だった場合にも、心優しいわたしとしては「大丈夫かなぁ」と思って見ちゃう。男が道に迷っているようだったら「男のくせに方向音痴かい(これは女性に対しても男性に対しても、明らかに性差別の発想である)」と思って見つめちゃうのもたしかである。つまり、あちらさんと目があう確率が高いわけだ。そういう場合は、声をかけられてもしかたがないだろう。だが、わざわざ車を止めて、窓から顔を出して道を尋ねてくる運転手なんぞも、ときどきいたりして、これはどう考えても、わたしと目があったとは思えない。やはり自信ありげか、お人好しか、暇人に見えるのだろう。後のふたつのどちらか、もしくは両方なんだろうな、きっと。  
 自分がよく知っている場所ならば、道をたずねられても問題はない。初めての場所であっても、相手が地図かなんか持っていればなんとかなる。まあ、その地図のできにもよるだろうが。地図のできがそれほど悪くない場合は、自称「野生の方向感覚を持つ男」であるわたしは、地図とあたりの景色を見比べさえすれば、「今このあたりだから、たぶんあっちでしょう」ぐらいのことは言える。だが手書きの地図で、そのできが悪かったり、相手が地図を持っていなかったりした場合には、もうどうしようもない。  
 まあ、そういう場合は「ごめんなさい。わかりません」と言えばそれで済むのだが、困ってしまうのが、たずねられた内容がわからなかったり、答えようにも答え方がわからなかったりした場合。つまり、相手とのコミュニケーションがうまく取れない場合だ。「そんなことあるか?」と思った人は、日本には日本人しか存在しない、と思っている人に違いない。そう、外人さんから道をたずねられた場合が困るのである。  
 相手が多少なりとも日本語を喋ってくれればなんとかなる。ところが、どういうわけか欧米人、特に英語を母国語とする人というのは、どこに行っても英語は通じる、と思いこんでいるようで。英語には「郷に入っては郷に従え」ということわざはないんだろうか。いやもちろん、そんな日本語のことわざが英語にあるわきゃないんだが。同じような意味の格言ぐらいあるだろう。でも、どうやらそれを知らない人が多いらしい。  
 早口の英語でまくしたてられても、何をいっているのか、こっちにはさっぱりわからない。学生のころに英語の勉強をしたような記憶はあるし、アメリカ産の映画なんぞもよく観るから、聞けば一応「こりゃ英語だな」ぐらいには理解できる。その程度である。内容はさっぱりわからない。かろうじて道を聞いているのだろう、ぐらいには理解できたとしても、今度はどこに行きたがっているのかが理解できなかったりする。どうして、日本の地名を外人が発音すると、ああも正体不明の場所に聞こえてしまうのだろう。  
 それでもなんとか相手の行きたい場所が理解できることもある。すべての外国人が「郷に入っては郷に従え」という格言を知らないわけではないのだろう。片言の日本語をまじえて、必死の形相で語りかけてくる人だっているわけだから、相手の言葉が多少理解できたからって、わたしの英語力を誇るつもりはない。だいたい、相手の行きたい場所がわかり、そこまでの道のりをわたしが知っていたとしても、それをわたしが英語で喋れないようでは、誇ろうにも誇れないわけだし。  
 いつだったか、地元(横浜のはずれ)で外人さんから道をたずねられたことがあった。その人は英語で「品川駅はどっちだ」といっているように聞こえた。品川駅ったってここは横浜だぜ。と、わたしが英語でいったかどうかはさだかでない。とりあえず「品川駅に行きたいのか?」と聞き返したような気がする、たぶん英語っぽく。その人が「そうだ」と答えたように聞こえたので、わたしは英語で「歩くのか?」と聞いたつもりだった。どうやらその人は「いかにも」と答えたようだった。今でいうバックパッカーのような感じの人だったから、そういうこともあろうかと、とりあえず「この方角だ」と伝えたのだが、あの人は無事に品川駅にたどり着けたのだろうか。その前に、ホントに品川駅に行きたがっていたのかどうかの方が問題なのだが。  



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