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[ エッセイのようなモノ ]
世界広域蜘蛛の巣

2000.10.18

 うちの両親が旅行に行くことになった。なんでも、日光に二泊三日だそうである。宿の手配やら列車の指定券の手配やらをして来て、テーブルの上に各種書類を広げ、ふたりして騒いでいる。ほほえましい光景である。金を出したのは父親だが、各種手配はすべて母親がやった。その話しをふたりでしていたりする。母親いわく、  
 「大変だったのよ。JCBに電話して、いろいろ聞いて、それからJCBの窓口まで行って、切符受け取ったり、宿の申し込みしたり」  
 テーブルの上には、その結果手に入れてきた切符だのパンフレットだのが、ところ狭しと散乱している。その下に隠れるように、それらが入れられていた封筒が、申し訳なさそうに鎮座ましましていた。その封筒が、なぜ申し訳なさそうに見えたかというと、切符だのパンフレットだのの隙間から見える、封筒に印刷された文字のせいだった。そこには、黒く「日本交通公社」と印刷され、その上あたりに赤く「JTB」のロゴが入っていたからである。  
 だからなんだって?  
 うちの母親は、さっきから「JCB、JCB」と連呼していたのである。確かに似ちゃぁいるが、まったく別物ですぜ、奥さん。JTBは日本交通公社。JCBは……あれ? なんだっけ? そもそも、JCBって何の略だ? Jはジャパンとして、CとBがわからない。で、よく考えてみると、JTBの方も、ジャパン・トラベルそのあとのBがわからない。ビューローじゃなかったか、と思ったが、「ビュー」という響きが「B」ではなく「V」を連想させるから違うような気もするし。辞書で調べてみたら「公社」は「ビューロー」で、頭文字は「B」だった。つまりあっていたわけだ。JCBはまだ調べていない。  
 このように、世の中にはこの手の三文字の英語で表す略語というのが非常に多い。ちなみに、英語で四文字の言葉(フォー・レター・ワーズ)というと、基本的には言ってはいけない言葉になる。ファック、ディック、カントなどである。  
 それはそれとして三文字の略語である。  
 NTTだの、PTAだの、DDTだの。KDDとDDIとIDOはなくなったか。ほかにもPCBだとかESPだとかUFOだとか、探せばいくらでも出てくるだろう。これらの正式名称を、全部ちゃんと知っている人が、いったいどのくらいいるのだろうか。ちなみに、前出のNTTはたしか「ニッポン・テレホン・アンド・テレグラム」のはずである。「テレホン」と「テレグラム」の順番が逆だったかもしれないが、逆だったからといって、特に支障はない。PTAは「ピアレンツ・ティチャー・アソシエイション」だったと思うが自信がない。それ以外のものに関しては、面倒なので省略する。興味のある方は自分で調べていただきたい。  
 これらの略称の本当の意味は、知らなくてもまったく不便がない。この手の略称の正式名称を知っておかないと困るのは、該当機関の関係者か、クイズの回答者ぐらいのものだろう。まあDDTに「該当機関の関係者」ってことはないと思うが。NTTの窓口に行って、「NTTって何の略ですか?」とたずねれば、たぶんちゃんとした答えが返ってくるに違いない。NTTの社員が「NTT」が何の略なのか知らなかったら、そりゃかなり問題になる。問題になるってことは、つまりクイズに出題されるということで……って、そういう意味じゃないな。  
 さて、わたしを含めて、このサイトに遊びに来てくれる人たちに共通のアルファベット三文字の略語というと「WWW」というのがある。プロレスの団体名ではない。これが何の略か、知らない人はいないと思うが、なんせ前回の「IT」も、「エッセイのようなモノ」を読んで初めて知った、という人がいるぐらいだから、なかなかどうして、世の中捨てたもんじゃない。まあ「WWW」にしろ「IT」にしろ、「知ってるのが常識だろ」というつもりはない。知っている人は知っている、知らない人は知らない。それでも世の中は動くのである。  
 ちなみに「WWW」は「ワールド・ワイド・ウェッブ」の略である。問題は「ウェッブ」だ。辞書の先頭には「くもの巣(状のもの)」と書かれている。まあ確かに、形状はくもの巣状というか、織物状というか、そう考えてよいのだろうが。なお、「ウェッブ」には水かきという意味もあるらしいが「世界広域水かき」では意味をなさない。英語もこれで、日本語に引けを取らずに難しい。  
 ついでにいうと、わたしを含めてこのサイトに遊びに来てくれる人たちの間で共通のアルファベット四文字の単語に「HTTP」というのがあるが、これはべつに言ってはいけない単語ではないので、念のため。  



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