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[ エッセイのようなモノ ]
最終電車の怪

2001.02.01

 このところ仕事が忙しかったせいで、最終電車で帰ることが何度もあった。今年に入ってから、ほぼ毎日にように終電車である。しかもこのわたしが、休日出勤までしてしまうという、とんでもない状況だった。そんなことをするから、関東地方に大雪が降ってしまうのだ。ご迷惑をおかけして申し訳ない。やはりわたしは、まじめに仕事をしてはいけないようだ。反省してます。  
 それはそれとして、毎日のように終電で帰ったのには、実は大きな訳がある。いや、もちろん仕事が忙しかったのだが、仕事が忙しくて、終電の時間まで帰れなかった、ということではない。逆である。仕事が忙しかったが、終電の時間になったから帰った、ととらえてほしい。つまり、ホントはまだまだ帰れる状態ではなかったのだが、これ以上やってると帰れなくなるぞ、ということで、終電車の時間で切り上げたわけである。  
 もう少し正確にいうと、本当の意味での最終電車で帰ったわけではない。その日ホントの最終電車に乗ったのでは、我が家の最寄の駅まではたどり着けない。実際には、最終電車のひとつ前の電車に乗って家に帰ったわけだ。それでもまあ、その電車は「どこそこ行き」の最終電車なわけだし、ホントの最終電車よりもせいぜいひとつふたつ前なだけだから、ほぼ毎日最終電車、といっても誰にも怒られたりはしないだろう。  
 わたしは仕事の関係上、終電に乗ることは珍しくない。いや、もちろん乗りたくて乗っているわけではないのだが、そうなってしまうことが少なくない。できるだけそうならないように努力してはいるのだが、わたしの努力が足りないのか、悪魔に魅入られているのか、年に何回かは終電で帰ることがある。場合によっては、「何回か」などという、甘い状況ではなかったりもするが。  
 で、知り合いと話しをしていて気がついたのだが、世の中には最終電車に乗ったことがない、という人もいるようだ。幸せな人である。いや、終電に乗ることが、イコール不幸せってことはないな。その時間まで愛しい人との甘い時間を過ごした人にとって、終電に乗ることは、取りたてて不幸なことでは……あ、それまで二人で楽しく過ごしていたのに、終電で帰らなきゃいけない、という意味では、身を裂かれるような思いがして、それはそれで不幸なのかも。  
 とにかく、世の中には最終電車を知らない、という人も存在するのである。同様に始発電車を知らない、という人もいるだろうが。始発電車と最終電車では、その内容が大きく異なる。何が違うって、始発を逃してもすぐに次の電車が来るが、終電を逃すと朝まで電車は来ないのである。これはでかい。夏ならまだしも、真冬のこの時期に路上で一夜を明かすのは考えものだろう。タクシーで帰れる距離ならばまだいいが、それで何万も出て行くようなら、カプセルホテルにでも泊まった方がマシなのである。あるいは、サウナで一晩明かす、という人もいるという。いずれにしても、電車代なら数百円、定期券を持っていれば出費はないはずのところが、安くて数千円、下手をすれば万単位の金額が出て行くのである。だからみんな、終電には間に合うようにしようと努力するわけだ。  
 鉄道会社もそのあたりはちゃんと考えている。まず、すべての人がホントの最終電車に集中したりしないように、ちゃんとダイヤを考えている。つまり、遠くの駅まで行く電車から終わって行くのだ。遠くの駅まで帰る人ほど、早い電車に乗らなければならないようにできている。そうすることによって、ホントの意味での最終電車に、すべての客が集まらないように小細工をしているわけだ。  
 余談になるが、JRってのは以前は国鉄といって、国の経営だったのが、かなり昔民営化されて、その時点でJRと名乗るようになったはずだ。つまり、今は私鉄のひとつでしかないはずなのに、いまだにニュースなんぞでも「JRと私鉄」と区別されている。たぶん、地図上の表記も、国鉄の頃のなごりで、白黒だんだらの線のままなのだろう。ひょっとして、JRはいまだに国営のつもりでいるんだろうか? だとしたら、世間の方で「おまえは私鉄なんだぞ」とわからせてやった方が良いのではないだろうか?  
 それはさておき、最終電車に乗っていると、気がつくことがある。先にも書いたように、最終電車を逃した場合、かなり悲惨な状態になることがあるわけだ。鉄道会社も、そのあたりは考慮してくれている。最終電車どうしが、ちゃんと連絡するように、ダイヤを組んでくれているのだ。で、乗り換え駅では駅員が叫ぶ「どこそこ行きの最終電車が発車します。お乗りの方はお急ぎください」と。で乗客は走るのである。駅員が「走れ!」と言うのである。普段は「駈け込み乗車はおやめください」とか言っているくせに。  



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