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[ エッセイのようなモノ ]
裏切りの街角

2001.06.20

 世の中には、自分で勝手に何かを期待しておいて、それが満足のいくものでなかったりすると、たちまち怒り出す人がいたりする。  
 たとえば映画や小説やテレビドラマなんぞを見て「期待はずれだった」と言っている人は多いが、考えてみればこれはおかしな話しだ。映画にしろ小説にしろテレビドラマにしろ、それがどんなにできが悪かったとしても、作った本人が「これはつまらないですよ。見ない方がいいですよ」などという宣伝をぶちかますわけがないのである。マスコミの世界というのは、どんなに満足の行かないできあがりでも、にこやかに「期待してください!」なんていわなきゃいけないことに、なっているらしいのだ。わたしもそれで何度騙されたことか(笑)。さすがにわたしも最近は老獪の域に達してきたようで、そのあたりの事情もわかるようになってきた。作り手側の言うことは、素直に聞いてはいけないのである。ほとんどの場合、言っていることの逆だと思って良い。わたしがいつも「うちのサイトは役に立たないよ」と言い続けている理由も、これで理解していただけるだろう。って、本気にしないように。  
 もちろん、世の中はそんなに短気な人ばかりではない。期待に添わなかったとしても、それで怒ったりなじったりがっかりしたりしない人たちだって、たぶん、極少数かもしれないが、きっと存在するに違いない。存在することを、わたしは期待している。もちろんわたし自身は、そういう少数派ではないので、そういう人たちが存在するだろう、というわたしの期待が裏切られた場合、怒ったりなじったりがっかりしたりする。問題は、誰をなじれば良いのか、ということなんだが。  
 わたしが、期待する側ではなく、される側に立った場合、ご存知の方も多いと思うが、期待されればされるほど、それを裏切りたくなってくるという、とっても素敵な性格をしている。この性格は悲しいことに普段の生活、特に仕事の上ではあまり発揮されていない。なんせ、期待されていようがいまいが、仕事はやらなきゃいけないのである。悲しいことだ。その分、わたしのこの素敵な性格は、このサイトの運営の時に強く発揮されることになる。読者の方から「期待してます」なんてぇメールだの掲示板への書き込みだのをいただいちゃったりした日にゃぁ「そうか、じゃあちょっと休もうか」なんて思っちゃったりするわけだ。だからといって「期待なんてしてませぇん」などという声が聞こえて来ようものなら「そうかい、そうかい。じゃあ休もうか」ということになる。こうなってくるともう、期待を裏切るとかそういう問題ではなく、単にやる気がないことに無理やり理由をつけているだけのような気もしてくるが。  
 もちろん、こんなわたしとは逆に、他人からの期待に応えようと、一生懸命努力を続けるまじめな人だって、世の中にはちゃんと存在しているだろう。わたしには、その心理はさっぱり理解できないのだが。  
 ただ、中には、本人の努力が、まわりの期待と違う方向に向いていたりして、せっかく努力したのに、まわりからがっかりされちゃったりする場合もあるようだ。努力はしたけど力及ばず、という場合のことではない。本人の努力が見事に実を結んだにもかかわらず、まわりから文句を言われてしまう場合だって、事実存在するのだ。  
 たとえば電車の運転手さん。最近は、おかしなゲームができてしまったおかげで、商売がしづらいという話しも聞くが。  
 電車が駅に近づいて、速度がだんだん落ちてくる。やがて停止線に到達したときに、通常は「がっくん」と止まるのである。ところが、中にはえらく上手な運転手さんがいて、最後の「がっくん」なしで、きれいに停止線に止まったりする。これはもう本人の努力の賜物意外のなにものでもない。みごとなものだ。だがしかし、乗っている人たちは、ほとんど全員が、最後の「がっくん」が来るものとして身構えていたりするわけだ。で、その「がっくん」がないのに電車が停止して、いつ完全停止したのかわからないのにドアが開いちゃったりしようものなら、乗客のほとんどが、ホントに降りていいのか悩んだりする。  
 同じような例は他にもある。車の急ブレーキという奴だ。突然どこかから、急ブレーキの音が聞こえてきたとする。ブレーキをかけてる本人は、間違いなく、ぶつからないように努力しているはずである。ところが、その音を聞いたまわりの人間の十人中九人は、ほぼ確実に、最後に「ガッシャーン」という破壊音が入るのを期待しているはずである。少なくともわたしは心のどこかで期待している。どこにもぶつからずに無事に止まっちゃうと、まわりの人間はがっかりする。いや、ホントはそんな期待、しちゃまずいんだけど。  
 まあ、結局期待という奴は、本来裏切るために存在するってことだ。  



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