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[ エッセイのようなモノ ]
新・お客様が神様です

2001.07.18

 世の中の商売は、基本的にすべて接客で成り立っている。場合によっては直接客と接することのない職場もあるだろうが、お客様あっての仕事なのである。  
 いつだったかファーストフードの店に入ったときのこと。客はおじさんだったかおばさんだったか忘れたが、少なくとも頻繁にファーストフードに物を買いに来るような感じの人ではなかった。誤解されないように書き添えておくが、おじさんやおばさんだからファーストフードの店に頻繁に行かない、ということではない。おじさんだろうがおばさんだろうが、ファーストフードを愛用している人だって少なからずいるに違いない。わたしがその客を見て、ファーストフードに慣れていないのかな、と思ったのは、おそらくその雰囲気やら店員と交わしていた会話の内容からだろう。そして、その会話の内容というのがおもしろかった。  
 客が何をどれだけ買ったのか、細かいことはわたしも知らない。わたしの記憶に残っているのは、客がアイスコーヒーだかコーラだか、とにかくそういった飲み物を注文したときのことだ。店員が、  
 「Sサイズ、Mサイズがございますが」  
 と確認すると、客は迷いもなく、  
 「普通の」  
 と答えたのである。これはなかなかナイスな答え方ではないだろうか。で、これに対する店員の対応も、これまたすばらしかった。何事もなかったように、  
 「大きいの、小さいのがございますが」  
 と聞き返したのである。これに対して客は「小さいの」と答えたのだが、それはもうどうでも良い。感心したのは、店員が顔色ひとつ変えずに、なおかつ間髪を入れずに「大きいの、小さいの」と聞きなおしたことだ。これは、ひょっとすると接客マニュアルに載っていることなのかもしれないが、その店員の言い方には、マニュアル通り、という雰囲気はまるでなかった。おそらくこういった会話は、毎日のように何度も繰り返されているのだろう。それでも店員さんは、いやな顔ひとつせず、あたりまえのように、微笑みを絶やさずに接客するのである。  
 その一方で、おそらく毎日同じような会話を繰り返しているうちに、対応する側が飽きて来たのかな、と思うような反応を示す場合もある。顕著なものはお役所か。なにしろあそこで働いている人の大半は、接客をしているとは思っていないらしいのだから。もちろん、そうでない人も大勢いるに違いないのだが、どういうわけか、お役所仕事と聞くといやな思い出がよみがえるらしい。これはもう生まれる前からDNAに組み込まれているとしか思えない。  
 たしか、免許の書き換えに行ったときのことなので、すでにかなり前のことである。なにしろわたしはゴールドライセンスの持ち主だから。って、単に運転してないってだけのことですが。それはそれとして、受け付けにいたおばさんは、誰かが何かを聞くたびに、はっきりといやそうな顔をして、明らかに「またか」と思っていることを表明しつつ、  
 「そこに書いてあるでしょ」  
 かなんか、相手の顔も見ずに言っていた。そりゃ確かに、あなたは毎日同じ質問を、何度も何度もされているのかもしれないが、質問する方は何年かに一度のことなのである。何年も前のことなんぞ、覚えちゃいない。それなのに、「おんなじことを何度も聞くな」という顔をしないでいただきたい。言っちゃぁ悪いが、あんたはそれで給料をもらっているのだから。  
 もちろんそれだけで、ファーストフードの店員の方が偉い、なんぞと言うつもりはない。場合によっては、ファーストフードの店員は、裏に回れば、  
 「今日チョーダサの客が来てさぁ。アイスコーヒー普通の、とか言ってんの。バカじゃん」  
 なんて話しているような、裏表のある人なのかもしれない。それに対して、免許書き換えの時の受け付けの人は、いつどこで誰に対しても同じ態度で接している、裏表のない人なのかもしれないのだ。  
 もちろん、どちらが良いという話しではない。人間性はどうあれ、接客という意味では、明らかにファーストフードの勝ちなのである。まあ、お役所ってところは商売敵がいないから、サービス向上とか、売上を上げる努力なんてぇものが必要ないのだろうが。税金取られた上に、自分の住民票をもらうのにまで金を取られちゃったりすると、少々納得のいかない場合もある。いっそのこと、お役所も民営化してしまった方が良いのかもしれない。あるいは、窓口ごとに出来高制にするか。そうすると、態度の良い窓口のところが行列になって、よけい不便になっちゃったりするのだが。  



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