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[ エッセイのようなモノ ]
日本の夏の怪

2001.07.25

 夏である。夏といえば汗、ってな話しは、かなり昔にした記憶があるのだが。日本、夏、汗、と来たら高校野球、と発想がつながる場合もあるだろうが、今回は別口。  
 夏ともなると、テレビのCMに「蚊取りなんちゃら」という商品が頻繁に登場するようになる。念のために書き添えておくが「なんちゃら」に「真吾」とか入れないように。そんなオヤジギャグを考えるのは、わたしだけか。まあ、CMによく登場するのは確かだが、「真吾」の方は夏に限ったことではない。  
 なぜ、夏になると蚊取り系のCMが増えるかというと、それはもう蚊が夏の生き物だからだろう。江戸時代には、「本所に蚊がなくなれば大晦日」などという川柳もあったらしいが、いまどきそんな場所は、そうそうあるものじゃないだろうから、蚊といえば夏。  
 たしか「枕草子」だか「徒然草」だかにも、鬱陶しいものとして、出かけようとした矢先にやって来る来客と並んで、寝ようとしているときに飛び回っている蚊、というのがあったような気がするが、記憶違いかもしれないので、信用しないように。って、ちゃんと調べてから書けっての。  
 なんでも、蚊という奴は、汗のにおいだか成分だかに誘われてやってくるのだそうだ。ただ、やたらと汗をかいている人が、やたらと蚊に刺されやすいかというと、どうやらそういうものでもないらしい。A型の人が刺されやすいだの、いやB型の方が狙われるだの、世間ではいろいろと言われている。なにが正しいのか、わたしは知らない。そういう調査はそういう研究をしている学者の方におまかせする。学者の方々が、そういう研究をしているかどうかは知らないが。  
 そういう研究をしている人でなくても、蚊の幼虫がボウフラというやつだ、ということはご存知だろう。いや、もしかしたら、小学生の読者の方の中には、まだ習っていない、という人もいるかもしれないが。とにかく、蚊の幼虫はボウフラというのである。水の中に生息する、細くて短い糸のようなちょいと気色の悪い虫なのである。  
 わたしが子供のころには、なんだか知らないが、めったやたらと正体不明のドラム缶だの詰まった下水溝だのがあって、そこに溜まった水の中にボウフラがウヨウヨわいていた。ところが昨今は、衛生管理が行き届いているためか、ボウフラのわいている水溜りってのを、あまり見なくなったような気がする。ひょっとするとわたしの注意力が足りないだけかもしれないが、おかしなこと、役に立たないことへの注意力は、人一倍ある方だと自負しているので、わたしが気がつかないってことは、やはりボウフラがわいている水溜りは減っているのだろうと思う。そう思わないと、ここから先に話しが進まなくなる。  
 昔に比べて、ボウフラが少なくなったということは、当然蚊の量も減るはずである。それに加えて、毎年毎年出てくる蚊取りなんちゃらの数である。どう考えたって、蚊は絶滅の危機に瀕しているはずだ。だが、どこかの団体が蚊の保護を唱えている、という話しは聞いたことがない。唱えられても困るが。そもそも、蚊が絶滅しかけているとしたら、こうも毎年蚊取り線香だのマットだのが売れるはずがない。いや、それ以前に、こうも毎年強力な蚊取りなんちゃらが売れているのに、蚊が絶滅しないのがおかしいのだ。  
 考えてみていただきたい。蚊の幼虫であるボウフラを見かけることが少なくなったのに、なぜだか毎年夏になると蚊に刺されるのである。どこからやって来るのか知らないが、夏になれば必ず蚊が現れるのだ。で「痒いなぁ」なんて思っているその瞬間に、テレビから「虫刺されには……」なんてぇ声が聞こえたり「蚊には××マットです」なんてぇフレーズが響いて来たりする。で、当然のことながら「ああ、買に行かなきゃなぁ」と思うのである。不思議なことだ。ボウフラが見当たらないのに、毎年毎年蚊の奴は、いったいどこからやって来るのだろう。同じことは蝿にも言える。最近蛆虫を見た方はいらっしゃるだろうか? わたしはもう何十年も見ていない気がする。でも、夏になると、どこからともなく蝿は飛んでくる。するとタイミング良く、テレビで蝿取り用エアゾールのCMが流れたりするのである。  
 これをあなたがどうとらえるか、わたしは知らない。その手の「蚊取り」メーカーの陰謀と考えちゃう人もいるかもしれない。何しろ、世の中から蚊がいなくなったら、線香にしろマットにしろ、蚊取りは売れなくなってしまうのだ。注意して見ていただきたい。毎年夏になると、近所を怪しげなバンが徘徊して、時々停車しては、開けた扉から、煙のようなものが、かすかな唸りとともに湧き出していないだろうか? 蚊取りのメーカーが、飼育した蚊を放していないと、あなたには言い切れるだろうか? わたしは知らない。  



2001.07.25(追記)

 で、公開と同時に追記する、という暴挙にでる(笑)。こんなことははじめてだ。なにしろこの原稿、何週間も前に書いたものなのである。ちなみに、この数週間分の原稿は、すべて六月の末から七月の初旬にすべて用意されていた。この原稿も、ずっと順番待ちをしていたわけだ。おかげで、ここしばらくは定期的な更新がなされていたのだが、何週間も前に原稿を用意しちゃうと、公開するころには新しい情報が入って、このように同時追記なんてぇわけのわからないことになってしまう。やっぱり、原稿は締めきりギリギリに書くべきだ、ということか。これからは気をつけよう。あ、新しい情報が入ったら、書きなおせばいいのか? まあ、わたしがそんな面倒なことをするはずはないが。  
 で、ボウフラを見かけないのに蚊がいる謎について、この「エッセイのようなモノ」にも時々登場している、わたしの父親にはなしたわけだ。うちの父親も、たしかにボウフラはほとんど見かけないといっていた。ただし、全然いないわけではない、という。なにしろ彼もかつては少年だったわけだし。ボウフラの生態には詳しい。かどうかは知らないが。それに彼は「蚊取なんちゃら」を作っちゃいないが売っている。それも卸だから大量に扱っている。その道には詳しいに違いない。かどうかも知らないが。  
 思った通り回答は返ってきた。ボウフラは成長が早くて、ニ、三日で蚊になるのだそうな。つまり、ちょいとした水溜りでも蚊は発生するらしい。たとえば庭に水をまいたとする。それが日陰で、ニ、三日水溜りが残っていたとする。その水溜りにボウフラがわき、水が枯れるよりも先に蚊になって飛び立つのだそうだ。  
 ただし、これがホントかどうかは知らない。なにせ彼も「蚊取なんちゃら」を扱う商売をしているという点では、あちら側の人間なんだから(笑)  



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