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[ エッセイのようなモノ ]
ラッキーストライク!

2004.01.24

 さて困った。  
 まあ、読者の皆さんにはどうでも良いことだろうが、わたしにとっては、実は生きるか死ぬか、というほど切実な問題に近いぐらい、困ったことになっているのだ。  
 話しは去年の十月ごろにさかのぼる。  
 以前にも書いたと思うのだが、わたしが好んで吸っているタバコは、ラッキーストライクという銘柄で、その中でも両切りという、フィルターのついていない種類のものである。この、ラッキーストライクの両切りというやつ、普通に自動販売機で売っていることは、めったにない。駅の売店なんぞでは、まず売っていない。したがって、なくなってしまうと、ちょいと買ってくる、ということができない可能性が高いのである。とはいえ、売っている店はあるのだから、わたしはいつも、売っている店で、十個まとめて一度に買っていた。それで、家には常に予備があるわけだし、仕事だの外出のときには、いつも鞄に予備をひとつふたつ入れるようにしていた。  
 で、去年の十月だか十一月だかのことである。買い置きの数が少なくなったので、わたしはいつもの店に、いつものごとくタバコを買いに行った。地元のこの店は、いつもわたしがタバコを買いに行く店なので、わたしが行くと、黙っていてもラッキーストライクの両切りを十個、出してきてくれる。その日、店のおじさんが、「実は、両切りのラッキーストライクの輸入が中止になったらしいんですよ」といって来た。は? 聞いてないよ、そんなこと。って、そりゃそうだが。  
 なんでも、売上が伸びないので、輸入元が輸入中止を決定したのだそうだ。つまり、アメリカに行けばまだ売っているが、日本にはもう入ってこない、ということ。ということで、現在すでに輸入済みのもの、つまり、各店の在庫がなくなった時点で、日本国内ではラッキーストライクの両切りは手に入らなくなる、ということが判明した。  
 そこからわたしの苦労が始まったのだ。  
 その日は手持ちの金が少なかったので、十個買っただけで帰ったが、翌日再びその店に行き、あるだけ全部買い占めた。とはいっても、金もなかったので、せいぜい二十個だが。他に買うお客さんがいたら悪いなぁ、と思ったので一応確認したら、「まだ自動販売機にも入ってますから、大丈夫ですよ」といわれてしまった。つまり、その程度しか買う奴がいないということだ。そりゃ輸入中止にもなるわな。  
 その後も、たしかここならあったはず、という店にわざわざ出向いたり、売っていそうな店を見かけると「在庫あります?」と聞いて、財布の許す限り買い占めた。店によっては、自動販売機に入れてある奴まで取り出して、売ってくれた。「いいんですか?」と聞くと、「うちとしても、綺麗にハケちゃった方が気が楽ですから」って、あんた、いいのかそういうことで。  
 そんなこんなで、最終的には、二ヶ月半ぐらいは持ちこたえられそうな数を、どうにか手に入れた。それが去年の十月の末だか十一月のはじめだったわけだ。初歩の算数ができる方なら、たぶんおわかりになるだろう。  
 二ヶ月半たってしまったのである。今日、最後のひと箱が終わってしまったのである。ついさっき、最後の一本を吸ってしまったのだ。実は、最後のひと箱は、開けずに取っておこうか、とも考えていたのだが、取っておいても価値が出るとは思えないので、結局開けて吸ってしまった。  
 明日からどうしよう。  
 実は、両切りの輸入中止の時期と前後して、ラッキーストライクの復刻版というやつが、新たに販売され始めた。なんでも、1916年に売り出されてから現在まで、少しずつ葉っぱのブレンドが変わっているのだそうで、今回の復刻版というのは、1916年に初めて発売されたものと、1942年に売られていたもののブレンドを、それぞれ再現しているらしい。ためしに吸ってみたところ、わたしの好みから、そう大きくはずれてはいなかった。  
 だったら、今後はそいつらを吸えば良いだろう、と思われるかもしれないが、残念ながらそうもいかない。なにしろこいつら、値段が高いのである。ただでさえ、若干値段が高い普通のラッキーストライクより、なお五十円高いのである。たかが五十円というなかれ。それは年間で一万八千二百五十円の差ということになるのだ。だから、しょっちゅうそいつらを吸う気には、なれないのだ。  
 さて困った。わたしはこれから、何を吸えばいいんだろう。どなたか、吸っている人があまりいなくて、でも、売っている店はそこそこあって、味と香りがそれほど悪くなく、値段も高くないタバコをご存知ないだろうか。  
 なお、この機会に禁煙する、という意見は、当然のごとく却下する。  



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