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[ エッセイのようなモノ ]
天才の苦悩

2006.01.08

 今年は戌年である。去年は酉年だった。  
 では、来年は?  
 今、この文章を読んでいる人のうち、いったい何人が「ねぇうしとらうぅたつみぃ……」と、干支を最初から唱えただろう?  
 中には、指を折って数えながら、唱えた人もいるかもしれない。巳年から先がどうしても思い出せない人とか、何度やっても十一支になっちゃう人とか、気が付くと十三まで行っちゃった人もいるかもしれない。  
 戌年と酉年が読めない、という人は論外。  
 正直いって、わたしも最初から唱えないとわからない口だ。さすがに、指を折って数えたり、十三まで行っちゃうことはないが。途中を抜き出して言うのは難しい。  
 もちろん、来年が亥年だということが、順番に唱えていかなくても、すぐにわかる人もいるに違いないが、そういう面白味のない人は、この際無視する。  
 これと似たようなものは、他にも色々ある。  
 人によっては五十音。「マ行」の次は? と聞かれたときに「アカサタナ……」とやっていかないとわからない人がいる。わたしはその口だ。アルファベットなんかも「Rの次はなんでしょう?」と聞かれて「ABCDEFG……」と唱えないと、Rの次が出てこない人は多いだろう。場合によっちゃぁ、歌に乗せないと出てこなかったりもする。まさか、歌と一緒にダンスもしないと出てこない、なんて人はいないと思うが、もしいたりすると、人前でアルファベットを思い出すのは、ちと恥ずかしいことになる。  
 まさか「Zの次はなんでしょう?」と聞かれて頭を抱える人はいないと思うが。  
 そういえば、以前テレビで観たのだが、アルファベットを、逆から順に言える人がいる。「ZYXWVUTSR……」とやっていくのだ。まあ、この人は単純に、アルファベットの並びを、逆からも覚えた、というだけで、これは誰でも覚えればできることらしい。  
 実は今わたしは、アルファベットの逆並びを書くときに、一旦最初から書いて、逆に並べ直した。普通の人はそうなると思う。実は、そのテレビ番組を観たときに、わたしも少し練習したのだが、途中で面倒になってやめてしまったのだ。残念なことをした。そこでちゃんと練習をしておけば、今役に立ったのに。って、他に役に立つ状況というのは、おそらくないと思うが。  
 他にも、歴代総理大臣の名前だの、歴代天皇の名前だの、歴代アメリカ大統領の名前だの、歴代徳川将軍の名前だの、歴代エッセイのようなモノのタイトルだのを、暗誦できる人というのは、かなりいる。いや、最後のやつに関しては、かなりいないと思うが。  
 そういったものの場合も、おそらくは順番に唱えていかないと全部出てこなかったりすることが多いだろう。  
 こういったものは、おそらく覚え方の問題なのだろうと思う。同じ暗記モノにしても、九九を最初から唱えないと出てこない、という人は、あまりいない。  
 いやもちろん、九九を覚え始めたばかりの小学生なんぞは、「いちいちがいち、いちにがに……」と、そこから順番にやらないと出てこないかもしれないが、一応そのレベルをクリアして、レベルアップしたひとは、「はちしち?」と聞かれたら、すぐに「ごじゅうろく」と答えられる。いや、一瞬、間があったとしても(笑)、まさか頭から順番ということはないだろう。  
 これは、暗記した九九を使用するときに、順番は関係ない、というのが理由だろう。つまり、記憶する際に、順番を無視しても出てくるように、記憶するからだ。  
 ちなみにわたしは、「はちしち?」と聞かれても即答できない。いや、頭から順番に言わないと出てこない、という意味ではない。九九の表の一部を覚えていない、という意味だ。いや、だから、九九が言えないわけじゃないってば。  
 「しちはち、ごじゅうろく」はすぐに言えるが「はちしち」は、一度「しちはち」に変換してからでないと、答えが出てこないのである。あるいは、答えが出てきても自信がないのだ。いや、マジで。  
 これは、わたしが小学生のときから天才だったために起きた不幸なのである(笑)  
 ほとんどの方はご存知だと思うが、九九の表というのは、実は、半分は覚えなくても済むようになっているのである。つまり「しちはち、ごじゅうろく」を覚えてしまえば「はちしち、ごじゅうろく」は、わざわざ覚えなくても、前後を逆転させれば済むのである。試験対策としては、これで十分なのである。  
 当時天才小学生だったわたしは、これに気づいてしまったのだ。で、前が大きい数字の九九は覚えなかったのである。おかげで、今どれだけ苦労していることか。  
 天才は苦労するのである。  



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