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[ エッセイのようなモノ ]
ファーストコンタクト

2006.04.18

 時々、無性に旅に出たくなる、というようなことは、わたしの場合、まずない。子供のころから、どこかに出かけるというのは苦手だった。苦手といっても、どこかに行くのが嫌だ、というわけではない。わたしは「旅」というものに、特に思いいれがあるわけでもなければ、強烈な思い出があるわけでもない。すごく好きというわけでもなければ、とってもいやだというわけでもない。  
 どちらかといえば、休みの日には家でゆっくりしたい方だが、どこかに遊びに行くのは嫌いではない。だが、旅ともなると、ちょいと遊びに行く、というのとはかなり違ってくるのではないだろうか。  
 そもそもわたしの場合、自分からどこか遠くに出かけたい、と思ったことはあまりない。たとえば、だれかと温泉に行くにしても、わたしから「温泉に行こう」と言い出したことは、おそらく過去に一度もない。ほとんどの場合、誰かがが「温泉に行こう」と言ったのに対して、「いいよ」と乗っかるだけなのだ。そういう事情だから、わたしが旅行のプランを立てることは、まずない。旅行に限らず、プランというものを立てたことがないのかもしれない。  
 温泉といえば、かなり前のことになるが、ネットで知り合った数人の友人と、温泉に行ったことがある。正直いって、わたしはそれほど乗り気でなかった(笑) なので、温泉に行こうという話題が出たとき、行かなくて済む方向に話を持っていこうと画策した。  
 たしか、男四人、女二人ぐらいだったと思うのだが「混浴じゃなきゃ行かないよ」と言ったのだ。そうすれば、女性陣から反対の声が上がると思ったのである。ところが、わたしの思惑はまんまとはずれて、女性陣は、いいよ、なんぞと言い出した。こりゃまずいと思ったわたしが「水着はNGだよ」と言ったのに対して、女性陣は「温泉に水着は邪道でしょ」とおっしゃいまして。  
 それだけ注文を出しておいて、しかも注文通りに話が進んでいるのに、「俺行かない」というわけにいかなくなり、結局行くことになってしまった。まあ、混浴だし(笑)  
 お話はこれから。  
 混浴のお風呂に入ったことがある人ならばご存知だと思うのだが、男女が一緒に入るといっても、脱衣所は男女別々のところがほとんどである。そうじゃないところもあるかもしれないが、そこは男女別々だった。  
 で、ほとんどの方がご存知だと思うが、たかが服を脱ぐだけでも、女性はなぜか圧倒的に時間がかかるものなのである。で、その温泉に行ったときも、みんなで一緒に風呂場に行ったにもかかわらず、浴室にはいると、女性陣はまだ来ていない。  
 代わりに、というのも変だが、先客で、おじさんが一人いた。  
 しばらくすると、われわれの仲間である女性陣が、大きなバスタオルで体をガードして、浴室に入って来た。別に期待していたわけではないのでどうでもいいのだが、かなりおおきなバスタオルで全身をくるんでいて、見えるとか見えないとか以前の問題だった。それだったら、水着の方がまだまし。って、期待してたのか?(笑)  
 まあ、仲間なので、気楽に話しかける。男女あわせて六人ほどの集団で、ワイワイガヤガヤやかましい。それが気になったのか、しばらくすると、先客のおじさんは出て行ってしまったのだった。  
 ちょいと悪いことをしたかな、と思いながらも、貸切状態になった浴室で、まあ変なことをするでなし(笑)、にぎやかに話しをしながらのんびりしていた。しばらくすると、誰かが風呂場に入って来た。男性用の脱衣所からである。ガッカリ……じゃなくて。  
 本当の貸切なわけではないので、それは不思議でもなんでもない。不思議というか変だったのは、入って来たのが、さっき出て行ったばかりのおじさんだったことだ。しかもおじさん、しっかりメガネをかけて戻って来たのである。やるなぁ、おじさん。  
 たしかに、万が一女性陣のタオルがはずれることがあったり、はずれないまでも隙間からチラッと見えるチャンスがあった場合、普段メガネをかけている人は、風呂場では不利だよな。って、おいおいおじさん。風呂場でメガネかけてる奴はいないって。目立つって。あからさますぎるって。  
 さすがのわたしも、その場でおじさんに突っ込み入れたりはしなかったのだが、風呂から出て、仲間たちに「今入って来たおじさん、さっき出て行ったおじさんだよね」と確認すると「やっぱり?」「そうだよね」という返事が返ってきた。別におじさんをとがめるようなこともせず、あれは絶対バレバレだよ、という話で盛り上がったのは、言うまでもない。おじさん、次の混浴までには、コンタクトにしておくべきですよ。  



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