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2001.12.29
お話し作りの方法でよくとりあげられるのが「三題話し」です。正確には「三題噺」または「三題咄」と書くようです。ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、ちょいと説明しておきましょう。 字を見ていただければわかるように、これはもともと落語の寄席から始まったことです。資料によれば、文化元年に初代三笑亭可楽という人が始めたことだそうです。 やり方は簡単。高座に上がった落語家が、会場のお客さんから三つの「お題」を頂戴します。お客さんはみんな適当なことを言うわけですが、その三つの「お題」を使って、その場で落語を作るわけです。 もらったお題は必ず使わなければいけません。基本的には、お題の言葉はキーワードとして出てこなければいけないようですが、多少ひねったりするのはOKのようです。たとえば「帽子」というお題の場合、使うのが「シルクハット」でも「野球帽」でも構いません。ただし「麦わら帽子」というお題の場合には、それを「シルクハット」に変えてしまうことはできません。 ものによっては、三題噺で作り出された作品が、脚色されて後世に残っている場合もあるようですから、三題噺を軽く見てはいけないのです。 今では、小説やら漫画やらシナリオやらの、お話し作りの課題としても、この手法はよく使われます。たぶん、その手の学校なんぞでは、よくやってるんじゃないでしょうか。 落語家と違って、小説の場合にはその場で作りあげる必要はありませんから、そのぶん楽になるはずです。まあ、学校なんかでは、授業時間内に作らなければならなかったりするかもしれませんが。 また、落語の場合は、ある程度きちんと考えてからでないと始められないかもしれませんが、小説の場合は、とりあえず書き始めて後から手を加える、という手も使えますから、じっくり考えるなり、とりあえず書き出しちゃうなり、好きな方法が使えます。がんばって面白いお話しを作っちゃいましょう。 ではまずお題の決め方です。 お題の決め方には、ふたつの考え方があります。 まず一般的な「アットランダムに取り出したお題でやる」という通常のやり方です。ただ、お話し作りの練習をするという意味では、お題の出し方にも注意を払った方が、ためになるでしょう。 お題を自分で考えてしまうと、都合の良いものを持ってきてしまうかもしれません。できるだけいいかげんな三つが良いのですから、自分では考えない方が良いかもしれません。 誰かに出してもらうというのも手ですが、その場合も、一人に三つ出してもらうよりも、三人からひとつずつ出してもらった方が、むちゃくちゃになって勉強になると思います。 そういうことを頼める友達がいない場合には(笑)、辞書か何かを引っ張り出して来て、適当に広げたページの中からひとつ取り出す。それを三回やってお題を集めるというのが、一番よくあるパターンでしょうか。使うのは、辞書に限らず、雑誌でも何でもかまいません。 もうひとつのお題の出し方は、同じテーマのお題を三つ揃えるという方法。たとえば、政治ネタだけを集めた「IT革命」「構造改革」「総選挙」などというお題にした場合、おそらくありきたりな内容になりがちでしょう。あるいは、「トンボ」「麦わら帽子」「花火」なんてお題だと、どうしても夏休みから離れられなくなります。 それを意識して、わざと関連のあるお題を集めて、がんばってそこから離れてみる。政治関係のお題でも、政治とは関係のない話しは作れるでしょう。どう考えても夏休みを思い浮かべてしまうようなお題で、いかにして冬休みを舞台にしたお話しを作るか。それを考えることが、練習になるわけです。 あるいは、「政治ネタ」にしても「夏休みネタ」にしても、同じお題で内容の違うお話しを、いくつ考えられるかがんばってみる、というのも手です。そうやってお話しを作る練習をするわけです。 さてお題は揃いました。いよいよ肝心の「どうやってお話しを作るか」です。 まず紙を三枚用意してください。大きさはA4かB5程度でOKでしょう。新聞広告の裏でも構いませんが、ノートではない方が良いでしょう。あとで三枚並べて見ますから。 用意した紙の中央に、お題になっている言葉をひとつ書いてください。なるべく大きく。三枚の紙の中央に、三つのお題をそれぞれひとつずつ書いてください。 で、まずはひとつめのお題をじっとみつめて、頭に思い浮かんだことをその紙に書いていきます。書き方は自由なんですが、真中に書いたお題から矢印を引いて、頭に浮かんだことを書くと良いかもしれません。場合によっては、そこからまた別の発想が出てくるかもしれませんから、その場合は、順に矢印でつないでいけば良いわけです。 実はここでは、文字で書く必要すらないんです。頭に浮かんだイメージを絵にしちゃってもいいんです。文字で書いた場合にも「〜か?」と疑問形にしちゃったり、「このネタはホニャラカという小説にあった」と書いてしまってもかまいません。とにかく、自分のやりやすいように、中央にあるお題から湧き出た発想を、自由に伸ばしていきましょう。 しばらくすると、ネタが尽きてきたり、疲れてきたりします。そうしたら次のお題に移りましょう。ひとつのお題に執着する必要はありません。なんにも出てこないなぁ、と思ったら、迷わず次のお題に進んでください。三つ目まで行ってしまったら、またひとつ目に戻る。いや、二つ目に戻ったってかまいません。あっちへ行ったりこっちを考えたり。とにかくひたすら、三つのお題から思いつくことを書き出していきましょう。 場合によっては、二つのお題が絡まって、ひとつの発想が出てくるかもしれません。その場合は、両方の紙にその発想を書いてください。 だとしたら、一枚の紙に三つのお題を書いてもいいんじゃないか、と思うかもしれませんが、そういうところで紙をケチったりしないでください。 一枚の紙にお題を書いてしまうと、それぞれが影響してしまう場合があります。この段階では、それぞれのお題同士を、あまり関連づけなて考えない方が良いのです。下手に関連付けてしまうと、発想の広がりが押さえつけられてしまう可能性がありますから。もちろん、複数の発想が絡み合って、また別の発想が出てくる場合もありますが、ここではそんなことを意識してはいけません。それはまた先の話しです。 それに、発想がどんどん広がって行った場合、一枚の紙では足りなくなったり、それぞれのつながりがわかりにくくなってしまうこともあります。 どのお題からもまったくなんにも浮かんでこない、という場合もあるかもしれません。 そういう場合は、無理をしないで一休みしましょう。窓から外でも眺めてみるとか、トイレにでも行ってみる。ただし、本を読んだりテレビを見たり、ゲームをやったりしてはいけません。他のことに熱中しないで、頭の中が空っぽになるような状態にしてあげてください。 それでもなんにも浮かんでこない、という場合。あなたの頭の中には情報が少なすぎます。普段からもっといろいろな情報を吸収するように心がけてください。材料を仕込んでおかないと、何も生まれてきませんよ。 とはいっても、三題話しはこなさなきゃいけませんから、なんとかしなきゃいけません。そういう場合は、辞書を引っ張り出して、お題になっている言葉やものを調べてみてください。国語辞典だけではなく、和英辞典や漢和辞典なんかも引っ張り出して、該当する項目や関連する項目を見ていきます。 知っているつもりの言葉や物でも、辞書で調べてみると意外な発見があったりします。また、説明文に出てくる言葉をさらに調べてみたり、前後にある言葉からなにか思いつくかもしれません。 なんにしても、この時点では、できるかぎりたくさんのイメージを搾り出す、ということを念頭に置いてください。 このあたり、落語と違って小説の場合は、じっくり時間をかけられるのでありがたいですねぇ。 さて、とりあえずそれぞれのお題に対して、たくさんの事柄が出てきたと仮定しましょう。そうでないと先に進めませんから。 実は通常は、このころには何らかのイメージが浮かんでいるはずなんです。あるシチュエーションだったり、シーンの断片だったり、決めのセリフだったり、何が浮かんでいるかは、その時によってさまざまでしょうが、きっと何か浮かんでいます。そのためにいろいろと書き出したんですから。 ここまでさんざん書き出してきたものは、それを直接使って何かする、ということはあまりないのです。じゃぁ何のためにそんなことしたんだ、ということですが。すべては頭の中を引っ掻き回すためだったんです。頭の中にあるいろいろな情報を引っ張り出して、そこからまた新たな情報を取り出す。 最初のお題だけでは処理できないイメージを、関連する別の情報で処理するために、頭の中にあるものを引きずり出す。そのために、片っ端から書き出したんです。 もちろん、そういう意味では、わざわざ書き出す必要はないかもしれません。慣れてくれば、頭の中だけでもできてしまうでしょう。でも、できるだけ紙に書き出してください。頭の中だけでやった場合よりも、絶対に多くの情報が出てきますから。 そうはいっても、ここまで来てまだ何も思い浮かばない場合もあるでしょう。そういうときは、もう一枚紙を用意してください。そして、まず今書いた三枚の用紙を並べて眺めて見るのです。縦に並べようが横に並べようが、三角形に並べようが、それは自由です。 ごちゃごちゃといろいろ書かれた三枚の紙を眺めて、それぞれの紙に書いてあることを関連づけてみます。同じ意味の言葉はないか。似たような音の言葉はないか。なにか関連するものはないか。逆に、まったく反対の意味になる言葉でもかまいませんし、全然関係のないものを無理やりくっつけてみてもかまいません。 さっきまでは基本的な三つの「お題」をベースにしてやっていたことを、今度はもっとたくさんのお題でやる、と思えば良いのです。なにしろ今度はたくさんのお題があるわけです。それを相互に組み合わせたりするわけですから、もっといろいろなことが出てくるはずです。 そこから出てきた発想を、新たに用意した紙に書いていきます。オヤジ第三段階ぐらいの駄洒落が出てきてしまうかもしれませんし、ちっともお話しになってくれないかもしれません。でも、多少無理があってもイメージ同士を混ぜてみてください。 ひょっとしたら、結局お話しは作れないかもしれません(笑)。お話しは作れないかもしれませんが、もしかしたら別の結果が生まれることだってあるんです。場合によっては、そこからとんでもない発明が生まれちゃう可能性だってあります。そうすれば、それはそれで大儲けできるでしょ(笑) そもそも、この作業自体が頭の体操になっていますから、たとえ今良いアイデアが出てこなくても、この練習を繰り返すことで、アイデアが出やすい頭の構造になるのです。この手のことを何度もやっていると、そのうちわざわざお題を設定しなくても、何気なく目にしたことから、ふとアイデアが浮かんでくるようになります。頭の中が、そういう構造になっちゃうんですね。 言い換えれば「頭が良くなる」。 まあ、本当に頭が良くなるのか、良くなるとして、どの程度頭が良くなるのか、という点に関しては、わたしの保証の限りではありませんが。 さてこのようにして三題話しを使ってお話し作りの練習をする場合、お題になっているものが、ただ単にお話しの中に出てくる、というだけでは意味がありません。三つのお題が、できるだけストーリーに密接に関係するように努力してください。 たとえば、「メガネ」「月」「納豆」というお題だった場合に「メガネをかけた男が、納豆を食べながら月を見ていた」という出だしだけでは、面白くもなんともありません。とても後世に残るお話しにはなりませんね。いや、そこから始まって、お話し自体は傑作が残るかもしれませんが「三題話し」のできとしては最低でしょう。「月→満月→狼男」という発想をして、「視力の衰えてしまった狼男が、満月の晩に変身してもメガネをかけたままだったら……」というような内容を考えることだってできるはずです。いや、これが良い見本という意味ではなく……。だいたい「納豆」がどこにも入ってませんし(笑) でも、もしこの「メガネをかけた狼男」の設定を面白いと思ったのなら、たとえ「納豆」がうまくからんでくれなくても、すぐにそのアイデアは捨てたりしないでください。しばらくいじくりまわして、なんとかして「納豆」をお話しにからめる方法を考えてみましょう。それこそがお話し作りの練習なんですから。 いや、なにもこの「メガネをかけた狼男」で話しを作れ、といっているわけじゃありませんよ。これはあくまでも例ですから。自分でいろいろと考えているときに「二つまではうまくつながるのに、最後のひとつがうまく入らないなぁ」という状況は、よくあることだと思います。それでもしばらくは、そのネタをいじくりまわしてみる。いじくっていじくって、もうこれ以上どうしようもない、というところまでいじくって、それでもうまくできないということになったら、しかたがないので諦めましょう。 でも、そこで浮かんできたアイデアは、三題話しとしては完成しなかったかもしれませんが、普通に小説のネタとしては充分使えるものかもしれません。捨ててしまわずに、どこかにメモしておくことをおすすめします。 そして、「メガネをかけた狼男」だと納豆とうまくからまないけど「メガネをかけたかぐや姫」じゃどうだ? とか、いっそのこと、満月じゃなく納豆で変身する狼男ってのはどうだ? とか。バカな発想でもかまいませんから、ドンドンしていってください。 なんにしても、三題話しで肝心なことは、お題がただ出てくるだけでなく、ストーリーにちゃんとからんでいることです。 もちろん、常に完璧な結果にはならないでしょうが、練習をしているときには妥協せず、可能な限り完璧を目指してください。まあ、たかがお話し作りですから、そこまで力む必要もないんですけどね。 さて、三題話しを使って、最終的にどこまで書くかという問題もあります。 お話し作りの練習ということだけだったら、あらすじを考えるだけで構わないかもしれません。そうやっていくつもあらすじを考えることで、お話し作りの力が鍛えられていきますから。 でも、せっかくお話しを考えたのなら、ちゃんとした小説にしてあげましょうよ。いや、ちゃんと「小説してる」かどうかは別にして(笑)。とりあえず、あらすじだけではなく、小説の体裁を整えてあげましょう。 たかだか三つのお題を盛り込んで作ったお話しですから、そんなに長くなることはないでしょう。原稿用紙五枚から十枚というところだと思います。もちろん、もっと長くすることもできるでしょうが、練習としてはあまり長くしない方が手ごろかもしれません。 せっかく考えたお話しですから、可能な限り、ちゃんと小説の形にしてあげましょう。 仮に小説の形にしないとしても、せめてあらすじを文章にしてください。小説を書く場合の基本は、とにかくまず書く、ということですから。 そうそう。 この三題話しの発想で使った三枚あるいは四枚の紙は、できれば残してください。 後で見直したときに、自分の発想に呆れるかもしれませんし、驚くかもしれません。時間がたつと、また別の発想が出てくる場合だってあります。そういうことがまた、何かの役に立つこともあるのです。 |
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