縦書きで読む
[ 映画の感想文のようなモノ ]
映画「GODZILLA」

1998.08.01

 まず、はっきり言ってしまいましょう。日本版の「ゴジラ」と、このアメリカ版「ゴジラ」はまったく別物です。同じモチーフを元にまったく別の思想で作品を作るとこうなる、という良い例かもしれません。  
 あいにくわたしは日本版ゴジラの最初の作品を見ていないので、正確な比較はできませんが、ご存知のように双方のフォルムを見ただけでも、まったく違うことはおわかりでしょう。アメリカでは「GODZILLA」というタイトルで、日本公開時には当然「ゴジラ」というタイトルになりますが、できれば「ゴズィラ」と表記した方がいいのではないでしょうか。つまり、まったく違う作品として扱った方が良いのではないか、と。  
 ということで、ここでは日本版を「ゴジラ」アメリカ版を「ゴズィラ」と表記させていただきます(作品および怪獣本体双方とも)  
 例によって、映画を見るまでは知らない方が良い情報満載でお送りしますので(笑)、ここから先は自分の判断で読んでください。  
 まず違いをあげておきましょう。  
 見た目に関しては、すでにみなさんご承知の通り。  
 ゴズィラは、全体に対して頭部が大きく、なおかつ下顎が大きな感じになっています。腕(前足)もゴジラよりも大きく、全体的には獣らしさがありますが、どうも二の腕のラインは人間臭い感じがします。背びれはゴジラの珊瑚のような形状ではなく、爪のような形をしています。胴体は逆三角形に近く、腰のあたりはシャープな感じ。脚は三関節で獣らしいのですが、腿のあたりに人間臭さがあります。尾は細くしなやかです。  
 全体的に、ゴジラにくらべて、ずっと獣っぽくなっているのは確かです。  
 数多くのフィギュアが世に出ていますが、あれらの写真には大きな間違いがあります。ゴズィラはめったなことではあれほど上体を起こしません。あれは、ゴジラのイメージが強くてああいう立たせ方になっているのだと思いますが、あれでは「エイリアン」に見えてしまいます。映画では、もっと「ジュラシック・パーク」のティラノサウルスレックスやベロキラプトルのような、前傾姿勢を保っています。そういう意味では躍動感があり、より生き物らしく見えます。が、残念ながらそれはあくまでも、「ジュラシック・パーク」の”レックスやラプトルのような”動きや躍動感であり、既存の動物の動きをベースに再現されていて、下手をするとカンガルーか何かを思い起こさせることになります。  
 鳴き声は一応、ゴジラの声をベースにしています。ゴジラの場合は基本的に最後が尻上がりになるあの鳴き声ばかり使います。咆哮も悲鳴も怒りも悲しみ(笑)も、基本的にはあの声をベースにしています。しかしゴズィラの場合は基本的には「ジュラシック・パーク」のティラノサウルスのような声を使っています。まあ、獣の鳴き声、と思っていただければいいでしょう。咆哮のみ、ゴジラのような尻上がりの声をあげます。  
 音楽もまったく違います。だいたい、エンドロールに流れる歌は、それまでの本編とはまったく雰囲気の違う曲で、それまでの雰囲気がぶち壊しになります。  
 熱線は吐きません。なんでも可燃性のガスを吐くという設定のようですが、それをはっきりと説明しているシーンはありませんし、わかるように見せてくれているシーンもほとんどありません。その設定を知っていなければ、たぶん気がつかないでしょう。  
 あとは、ゴジラよりも極端に早く走るとか、ミサイル攻撃を受けても平気なわけではないとか、細かい違いは山ほどありますが、それは実際に見てもらった方がいいでしょう。  
 さて、物語です。  
 ストーリーは、最初の「ゴジラ」を見ていないので、他の「ゴジラ」シリーズの作品との比較になってしまいますが、ほとんどの「ゴジラ」シリーズの作品よりも、ずっとリアリティがあります。  
 最初に襲われるのは、一応礼儀としてでしょうか、日本の漁船です。そのただ一人の生き残りの老人が、うわごとのように「ゴジラ、ゴジラ」と繰り返します。ここで疑問に思うのが、この老人がいっている「ゴジラ」とは、日本映画「ゴジラ」のことなのか、それとも、この作品世界の中では、かつて日本を襲ったゴジラは実在するのか、ということ。  
 そのあたりの設定がはっきりしません。つまり、アメリカに現れたゴズィラは、日本映画「ゴジラ」と良く似た生物が現れた、という設定なのか、かつて日本を襲ったゴジラのような生物が再び現れた、という設定なのかがいまひとつはっきりしないのです。  
 ニュースキャスターが「ガッジィラとは日本の神話の動物で・・・・」てなことを言うシーンがありますが、あれはそのニュースキャスターの間抜けぶりを表現するシーンであって、映画「GODZILLA」の中でも誤った表現であるという扱いをされていますから、これは論外。そうなるとやっぱり、あの映画世界の中にゴジラは実在するのかしないのか、非常に気になるところです。  
 やがて、大西洋上で漁船が次々に被害に遭います。広い海の上で、なぜこんなにもゴズィラが船と遭遇するのかが謎だったのですが、それはやがてわかります。つまり、主食が魚である、と。それはまあ、もう少しお話しが進んでからのこと。その前にまず、ゴズィラの上陸現場。  
 まるで巨大な爪でひっかかれたような傷のある(実際、巨大な爪でひっかかれたんですけどね)座礁した船、大量の放射能、巨大な足跡。その現場に、放射能の影響を受けて巨大化しているミミズの研究を、チェルノブイリでしていた学者が呼ばれ、「いったい何が起こっていると思う?」というような意見を求められます。当然のこと、彼は「放射能の影響でDNAが・・・・」というような意見を言うのですが、それがおかしな話しでして。この博士が呼ばれた時点で、少なくとも上層部は「放射能の影響で巨大化した生物が現れたのだ」という結論に達しているはずなのです。でなければ、彼を呼ぶはずがない。まあ、確認のために呼ぶことはあるでしょうが。  
 このあたりまでは、「ゴジラ」の展開とあまり違わないような気がします。  
 やがてゴズィラはニューヨークに上陸し、破壊の限りをつくします。  
 で、このあたりからが、「ゴジラ」とはかなり違う。  
 走るのが早いのなんのって。なんでも時速四百キロメートルぐらいの早さで走るのだそうです。歩幅やなんかから計算するとそうなるんでしょうが、あれだけの巨体が走り回ったら、確実に振動でビルは崩壊すると思うのですが、そういうことは起きません。地下鉄の穴を踏み抜いてこける、なんてこともありません。  
 で、ビルの谷間を走り回るゴズィラを戦闘ヘリコプターで追いかけるのですが、敵があまりに早いためにしょっちゅう見失ってしまいます。熱センサーで探そうにも、体温が回りのビルよりも低いために、見つけることができません。ここでまた疑問。なんでヘリコプターまで一緒になってビルの谷間を飛ばなきゃいけないんでしょう? もっと上空から追尾すれば、見失うことはないでしょうに。さもなきゃ、放射能を追ってもよさそうな気がしたんですが・・・・  
 なにしろ、最初のころにはやたらと残留放射能を前面に出していたのに、このあたりからそれはまったく出てこなくなります。放射能におかされた巨大生物が街を走りまわったら、残留放射能だってかなりのものになると思うのですが・・・・ そのあたりの問題に関しては、次回作で、ってことかもしれません。  
 さて、このゴズィラ討伐(笑)には、当然アメリカの軍隊があたりますが、それとは別に怪しい連中が暗躍しています。セリフからフランス系だということはわかるのですが、なかなか正体を明かしてくれません。やがて、彼らはフランスの秘密警察のようなものだとわかり、彼らは彼らなりにゴジラ討伐に来ていたことがわかりますが、それにしてもリーダーのジャン・レノが怪しい。どう見ても正義のために戦う人には見えないんですよ。わたしは最後まで、ゴズィラ本体か、もしくは細胞だけでも持ち帰って研究するために来ているのだと思っていましたが、わたしの期待はみごとに打ち砕かれて、彼らは本当にゴズィラを倒すためだけに来ていたのでした。ラストシーンでのジャン・レノは、かなり格好いいです。  
 やがてゴズィラは海に逃げますが、潜水艦の魚雷に倒されてしまいます。って、死体が確認できないという状況ですから、観客はだれもゴズィラが死んだとは思ってませんが。  
 しかもゴズィラは、その前にマディソン・スクエア・ガーデンに大量の卵を産み落としています。当然、そこから大量に子供たちが産まれて、卵を破壊しに行った主人公たちは小型のゴズィラに囲まれてしまいます。ここから先は、「ジュラシック・パーク」か「ロスト・ワールド」と同じになります。同じになるどころか、卵から生まれたベビー・ゴズィラの群れは、どう見ても「ジュラシック・パーク」のラプトルの群れにしか見えません。ひょっとして、CG用のプログラムはそのまま流用して使ってるんじゃないか、という気がしてきます。  
 あとはこの餓鬼どもを始末すれば終わり、ということで、結局マディソン・スクエア・ガーデンは空軍のミサイルで吹き飛ばされてしまいます。ほっと一安心、と思っていたら、実は親は生きていた、というのは当たり前のパターンです。  
 この後でまた不思議な現象が起きます。  
 親ゴズィラに追いかけられた主人公たちは、乗り捨ててあったタクシーに乗って逃げるのですが、時速四百キロぐらいで走り回るはずのゴズィラが、あっちこっちにぶつかりながら走るタクシーに、追いつけないんですね、これが。あのタクシーは時速四百キロ以上で走っていたようには見えなかったんですが・・・・  
 で、最終的にはゴズィラも空軍のミサイルに倒れます。今度は本当に倒れます。  
 倒れますが、すべて吹っ飛んだと思われていた卵のひとつから、一匹のこどもが出てきて咆哮して、映画は終わります。  
 これもおかしな話しです。軍の作戦なわけですから、目標を壊滅したかどうかのチェックは、すぐに行われるはずだと思うのですが、それが行われていなかったわけです。まあ、そこでチェックして残った卵をつぶしてしまったら、次回作が作れませんからね。でも、そんなことしなくても、一度死んだと思われていた親ゴズィラが、ラストで姿を現すまでにしばらく時間があったわけですから、その間に他の場所で卵を産んでいた、ってことにすればいいような気もするんですが・・・・  
 ということで、「GODZILLA」はどう考えても日本の「ゴジラ」とは別物です。  
 お話しの作り方は、日本の作品よりもかなりしっかりしているように見えますが、穴はあちこちにあるようです。日本版と比較するよりも、まったく別の作品としてみれば、娯楽作品としてはばかばかしいほど楽しめます。ってなことを、さんざん比較したうえにさんざんけなしてからいうか(笑)  


Copyright(c) 1997-2007 Macride 感動したい、笑いたい、今の気分にぴったりの人気作品を検索してくれる、便利な映画・ビデオ・DVD総合ナビゲーター!
ご意見ご感想は メール 掲示板
以下はみなさんからいただいた感想です
俺にも言わせろ!という方、自分の書き込みを削除したい方は