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1997.12.26
アメリカではスティーブン・キングと並ぶホラーの大家として有名な、ディーン・クーンツの新作です。本国での発表は’95年だったようです。
とはいっても、この作品はホラーとは言えないでしょう。ジャンルで分けるとすれば、サスペンスに入るのでしょうか。
突然姿を消した謎の女性。その女性を狙っている謎の組織。彼女の行方を追う主人公も、謎に包まれています。
クーンツは、「ベストセラー小説の書き方」という本を出していて、その中で、
「できるかぎり早く主人公を紹介し、できるかぎり早く主人公を窮地に陥れること」
というようなことを書いていますが、その見本のような作品です。とにかく、「この先どうなるんだろう?」と思わせる手法はみごとです。謎に対する気の持たせ方もみごとなもんで、なんてったって、姿を消した謎の女は、上巻のラストになって、やっとその姿を現すぐらいですから。
もちろん、提示された謎はラストまでにほぼきちんと解明されます。ただ、主人公の飼い犬がなぜ気弱な犬になってしまったのか、それが解明されません。その犬が最後にはきっと何かしてくれるんだろうな、と予測はつくし、その通りにはなるんですけどね。
それと、最後にロイ・ミロがなぜイブに殺されてしまわないのか、それがわたしには謎でした。イブがロイの思想を正しく受け継いだのであれば、ロイは死ぬべきなんですが・・・・
さて、クーンツにしろキングにしろ、その主人公には特徴があって、ほとんどかならず心に傷を負っています。その傷を乗り越えて主人公は敵に勝ちおのれにも勝つ、というのが、基本パターンですが、今回の作品に至っては、主人公が飼ってる犬でさえ暗い過去を持っているらしい、という念の入れ方。
ただ、ここ数年のクーンツの作品は、同じようなパターンの繰り返しのような気がして、わたしは少し飽きてきています。
翻訳のせいなのか、もともとそういう文章なのかはわかりませんが、記述がくどいところも多々あって、読んでいてかなり疲れます。小説をあまり読み慣れていない方には、結構辛いかもしれません。
ちなみに、クーンツの作品でわたしが一番好きなのは「ウォッチャーズ」なんですが、どうやら作者本人もその作品が一番好きなようです。
ただ、この「ウォッチャーズ」も、いきなり出てくる謎、心に傷を負った主人公がそれを乗り越えてて闘う、主人公とヒロインの運命的な出会いと心のつながり、といった、基本路線は変わりませんので、そのつもりで。犬好きな方は、結構気に入るかもしれません。
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