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小説「ループ」
鈴木光司著(角川書店)
全国書店ネットワーク e-hon

1998.02.01

 「リング」「らせん」に続く、シリーズ完結編(のはずだよな)。  
 前の二作が映画化されてますが、なんで「ループ」の出版を待たなかったのか、読んで理由がわかりました。「ループ」は映像化するのが困難なんですね。いや、絶対に無理ってわけじゃぁないんですが、映像化してしまうと、おもしろさの半分が欠けてしまいます。なにがどう欠けるかということは、例によってこれからネタばらしをしますので、これから「ループ」を読もうという方は、ここから先は読んではいけません。  
 まず話しは、「リング」とも「らせん」ともまったく関係ないような感じで始まります。主人公の名前が馨(かおる)っていうんですが、この人が冒頭、風呂上がりにマンションのベランダに出るシーンがあります。このシーンを読んでいて、わたしはてっきり、馨は女性だと思っていました。だって、その方が絵になるでしょ? ところが馨は男で、しかもそのときわずか十歳。それを明かすのが遅すぎるぜ、作者! まあ、それはそれとして。やがて話しはいきなり十数年後に飛びます。馨は医大生で、馨の父は転移性ヒトガンウィルスというのに冒されています。「リング」と「らせん」を読んでいる人には、「これが例のウィルスなのかな?」と思わせるところですが、どうも少々違うような感じです。確かにそのガンは一度犯されると、あとはもう確実に訪れる死を待つしかない、という病なんですが、「リング」や「らせん」のときとは症状が違う。  
 やがて、かつて馨の父が関係していた人工生命体「ループ」が出てくると、話しはどんどんややこしくなって来ます。この「ループ」というシステムは、人工生命体というよりも、バーチャルリアリティの世界のような感じと思った方がいいかもしれません。コンピュータ内部に原始の地球と同じ情報を作成して、そこから地球そのものの進化をシミュレートしようという計画で、何年もかけて、なんと人類と同等の文化と知性を持った生物まで登場したという。なんと、いままで読んできた「リング」と「らせん」は、このバーチャルリアリティ界の中の話しだったのです。とんでもないでしょ? しかも、それがわかるのは物語も半分以上過ぎてから。  
 ただ、そういう意味では、今現在のこのわれわれの世界も、ひょっとしてバーチャルリアリティの世界なんじゃないか、と思わせるところがあって、少し恐いです。  
 「ループ」界では、貞子のDNAが世界中に浸透して、ただ一種の生物しか残っていない状態になってしまっています。現実世界の転移性ヒトガンウィルスも、どうやらその方向に進んでいるようだということがわかり、「ループ」界と現実がどこかで融合しているらしい、ということがわかり・・・・  
 さてどうしよう。  
 いつもだったら、オチまで完全にばらしてしまうわたしですが、今回はそれをためらわせるものがあります。ここまでばらしてしまってから悩むのも変な話しですが、オチは本を読んでほしい、と。  
 もちろん、最後には物語が「リング」や「らせん」とクロスオーバーします。  
 あとがきに書いてあることを信じれば、「リング」を書いているときには「らせん」のの構想などなく、「らせん」を書きおわったときにも「ループ」の発想はなかったということですが、にもかかわらず、これだけみごとに融合させているとは、非常にみごとです。  
 わたしは、「ループ」のラストを読み終わったとき、思わず本棚から「らせん」を引っ張り出して来て、内容を確認してしまいました。  
 同じようにクロスオーバーしている三部作で有名なのは、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」ですが、あの映画の場合は一作目と二作目は思いっきり重なってましたが、三作目はほとんど前二作と関係のない形で話しが進みました。単に、続きという感じです。しかし、「リング」「らせん」「ループ」の場合は、文字通り螺旋のようにからみあっています。  
 まさか、いきなり「ループ」から読む人はいないでしょうが、読むときには、必ず「リング」「らせん」「ループ」の順に読んでください。そして「リング」を読みはじめてしまった人は、必ず「ループ」のエンディングまで読むことをお薦めします。全二作にはなかった「救い」が、「ループ」のエンディングで待っています。少し辛く哀しい雰囲気ではありますが・・・・  


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