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[ 小説の感想文のようなモノ ]
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小説「理由」
宮部みゆき著(朝日新聞社)
全国書店ネットワーク e-hon

1998.06.01

 わたしにとって、新刊が出ていたら無条件で買う三大作家のひとり、宮部みゆきの新作です。ちなみに、あとの二人は都筑道夫と草上仁。実をいうと、この三人のうち、宮部みゆきだけが、いつ書店にいってもちゃんと本が置いてある作家で、あとの二人は新刊が出たときにすぐ買わないと、後で探そうと思っても、全然みつからないんですよ。古本屋にもないし。しかも、書店でもあんまり大々的に扱ってくれなくて、知らないうちに新刊が出て、知らないうちになくなっている、ということがしばしば。  
 それはそれとして、「理由」です。  
 まず、前もっていっておきますが、今回の「感想文のようなモノ」には、「けなし」は出て来ません(笑) なにしろ、わたしにはけなしようがない。まあ、無理矢理けなすとすれば、「登場人物が多いぞ」ぐらいなものでしょうか? それにしたって、一度にどさっと出てくるわけじゃなし、その時話題の中心になっているのは、せいぜい五人ぐらいのもので、一度に十人が登場することすらない。だから、誰が誰だかわからなくなるようなことはないんですが、それでも、登場人物が多い。  
 ジャンル分けした場合、大きくわければ推理小説。もう少し細かく分類すれば、サスペンスにでもなるのでしょうか? ただし、意外な犯人も、読者を欺くトリックも、あっと驚く結末もありません。もし、同じ宮部みゆきの「火車」を読んだことがあるのならば、あれと同じジャンルだと思っていただければいいかな、と。  
 「火車」のときにはカード破産が中心に語られていましたが、今回は民事執行妨害。まあ、どちらも金融がらみの問題なんですが。  
 話しは、ルポルタージュの感じで展開します。つまり、事件はすでに決着がついていて、その後関係者に話しを聞く、という感じです。したがって、犯人は最初からわかっているはずなんですが、それはもちろん後半まで明かされません。  
 事件そのものの中心になっているのは、裁判所による競売物件にからんだ事件ですが、作品そのもののテーマになっているのは、家、家庭、家族、といった、人と人とのつながりです。  
 事件の関係者に話しを聞く、という展開の性質上、会話やセリフが多くなりますが、そこはそれ、この作者はセリフのうまさに関しては天下一品ですから、文句のつけようがありません。この人の場合、特にうまいのが子供、小学生から中学生ぐらいの年齢なんですが、それ以外の人々も生き生きと描かれています。  
 また、面白いのが、同じ事柄が、見る人の立場や性格によって、まったく違ったとらえられ方をされてしまう、というのを、誰の立場に荷担することもなく、淡々と記述してくれているので、登場人物の性格描写のいい見本にもなる、という点でしょうか?  
 あとはまあ、せっかくルポルタージュ形式を使っているのに、それをすべてに適用しているわけではなく、場合によっては通常の三人称も使っているのが、惜しいというか、なんというか。もちろん、全体をルポ形式でまとめるのは非常に難しいことでしょうから、無理もないといえば無理もないんですが。どうせなら、全体をそれでまとめて、本の体裁なんかもそういう感じにしてしまえば・・・・そうすると、ホントに実話だと思ってしまう読者も出てくるか。  
 まあ十中八九、今年のベストミステリーのベスト5に入るでしょうが、何しろハードカバーで千八百円(税抜き)もする上に、六百ページ近い本ですから、ちょっと辛いなぁ。とはいっても、読み始めたら止まらなくて、翌朝寝坊したことはいうまでもありません。  


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