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[ 小説の感想文のようなモノ ]
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小説「ミスター・マーダー」
ディーン・クーンツ著(文春文庫)
全国書店ネットワーク e-hon

1998.06.28

 このクーンツにしろ、スティーブン・キングにしろ、シドニー・シェルダンにしろ、日本である程度著名なアメリカのベストセラー作家には、共通の欠点があります。それは、とにかく長い、ということ。もちろん、長所と短所は表裏一体ですから、それが万人にとっての欠点というわけではありませんが、わたしにとってはかなりの欠点です。  
 長いという点がどういう欠点になるかというと、わたしの場合は読むのが大変だ、とか、途中で飽きるとかいうことではありません。読むのが大変かどうかは、作品の長さではなく、その文章によりますし、途中で飽きるかどうかは、作品の内容によりますから。  
 何が一番の欠点か、というと、それはもう「朝起きられなくなる」というこの一言につきます。なんせ、わたしが読書にあてる時間というのは、通勤途中の電車の中か、夜寝る前と相場が決まっていまして、通勤途中の場合は、降りる駅に着けばいやでも読むのを中止しなければなりませんが、夜ってぇのがくせもので、とにかく自分の意志で読むのを中断しなければならないわけですから、意志が弱いというよりも意志のないわたしにとっては、かなり辛い。しかも意志が弱い(じゃなくて、ない)わたしにとって、朝起きるというのは、それだけでも単純に非常に辛いことですから、その両方から攻撃されてしまっては、太刀打などできるはずがありません。  
 それはさておき、「ミスター・マーダー」ですが、例によって、おそらく作者としては読む前には知っていてほしくないだろうと思われる事柄を、このページでは平気でばらしますから、まだ読んでいない方で、これから読もうという方はここから先は読まないでください。  
 主人公マーティがある日家に帰ると、自分と瓜ふたつの男が現れて言った、「なぜおれの人生を盗んだ?」そこからすべてが……。  
 というのが、上巻の裏に書いてありますが、実際には話しはもう少し前から始まります。まあ何にしても、話しはまるで不死身の殺し屋アルフィーと、主人公マーティの戦いで進むわけです。アルフィーは、マーティの生活と家族こそが、失われた自分の人生と家族であると考えて疑わない。読者から見れば異様な心理描写が続きますから、アルフィーの方がおかしいというのはすぐにわかります。  
 で、この二人が瓜ふたつである理由というのは、予想としては大きくわけてみっつあります。まず第一に、生き別れていた双子の兄弟。第二にクローンもしくはそれに類するSF系の存在。そして最後に他人の空似。  
 もちろん、最後の予想はほぼギャグですから速攻で捨てますが、残った二つのどちらが正解か、という点は、上巻の中頃を過ぎたあたりで、それっぽく提示されます。結論を言ってしまえば、クローンなわけですが、なぜ小説家であるマーティのクローンが暗殺者として作り出されたか、という理由は、物語も終わりに近づいたころに明らかにされます。で、この理由というのが大笑い。わたしは思わず、本に向かって「おい、こら。そんなんありか」と突っ込んでしまいました。それはまあ、読んでのお楽しみにしておきましょう。  
 さて、物語を読み進むうちに、「小説のようなモノ」を書きたがる読者としては、この先どう展開するのか、というのが気になってくるわけです。  
 実際にこの作品がどういう展開になるか、というのは読んでいただければわかるわけですから、ここではあえて紹介はしませんが、パターンとしていくつか用意することはできます。  
 まず第一に、マーティはアルフィーを倒し、元の平温な生活に戻るというもの。これのバリエーションとして、アルフィーを倒すことはできても、元の生活に戻ることはできなくて、新しい人生を歩み始める、というのもあります。  
 第二に、マーティはアルフィーに殺され、アルフィーとマーティが入れ替わってしまう、というもの。このパターンの場合、読者はこれから先マーティの家族に訪れるであろう地獄の日々を思い悩むことになります。このパターンのバリエーションとしては、そこで物語を終了せずに、マーティの家族とマーティになりすましたアルフィーとの戦いを、その先も続け、最終的な結論を出すというものがあります。  
 第三に、アルフィーと戦い続けるうちに、マーティの中に殺戮の本能のようなものが目覚めどんどん悪鬼と化していく一方で、マーティの家族を自分の家族であると思いこみ続けるアルフィーの方に真実の愛のようなものが目覚め始め・・・・というもの。  
 この場合の終わり方はいくつかあって、マーティが勝つには勝つが、その時にはマーティが殺人鬼になっていて、彼の家族には新たなる不幸が訪れる、というパターンです。これは、第二のアイデアのバリエーションと同じ展開を用意することができるでしょう。  
 逆にアルフィーが勝ってしまうが、それは実は家族にとっては幸せであった、という終わり方。ただ、どちらの終わり方にしても、このアイデアと第二のアイデアの場合、マーティを主人公にしてしまうとどこかに無理が出てくるかもしれません。  
 どれが正解かは、読めばわかりますが、読まなくても推理するとこはできます。  
 なんだか、「感想文のようなモノ」というよりも、「他人の作品を元にどうやってネタを考えるか」というような内容になってしまいましたが、まあ、わたしがいつも小説を読みながら何を考えているか、ってことの参考までに。って参考なんぞにならないか。  


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