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1999.07.18
過去にも何度か書いていますが、新作を見つけたら速効でレジに持っていく作家のひとりに、草上仁がいます。念のために書いておきますが、この人の名前は「くさかみじん」と読みます。「くさがみ」とか「ひとし」とか読んではいけません。
さて草上仁の久々の新作は、五百ページ近い長編です。かつてはこの人、短編の神様みたいなところがありまして、軽妙な文章といい、奇想天外なストーリーといい、「なんでこの人はこんなことを考えつくんだ」と思わずにはいられない作品を書き続けていました。サラリーマン作家のため、週末にしか小説を書けない関係で、短編ばかりになってしまう、というようなことが、「プラスティックのしゃれこうべ」という短編集のあとがきに書かれていますが、ここ数年はだいぶ長編も書いているようです。ひょっとして、会社員はやめたんでしょうか?
あとがきといえば、この人のあとがきというのがまた、本編よりもおもしろくて、わたしとしてはいつも楽しみにしているのですが、ご本人は、あとがきを書くのは大嫌いだ、とことあるごとに書いています。本当に嫌いなのか、それともあとがきも作品のひとつとして楽しんでいるのか、まあ、どっちにしても読者にとって面白ければそれでよし、と。
さて「東京開化えれきのからくり」です。
これまでの草上仁の作品というのは、ほとんどが現代から未来が舞台でした。特に、遥か未来のおはなしが多かったのですが、このおはなしは、タイトルを見てもわかるとおり、過去のおはなしです。
設定としては明治六年なわけですが、本当の歴史に忠実なおはなしを、この人が書くはずがありません。ストーリー展開は、なんとなくあたりまえのサスペンス風ですが、随所に草上色がちりばめられています。
ただ、時代設定が過去であるせいでしょうか。なんとなく、いつものぶっ飛んだところ、というか、奇想天外な部分が少ないような気がします。設定を明治に持っていった時点で、特殊な宇宙人を出すわけにも、ポンコツ宇宙船を出すわけにも、サイボーグ化されたサラリーマンを出すわけにもいかないわけですから、当然限度が出てきます。
クライマックスでは、その時代の日本にはなかったものが登場して、おはなしを盛り上げてくれますし、そこまでの展開でも、充分楽しませてくれますが、そこはそれ。ある程度は予測できる展開だったりするわけです。ラストのおまけは、かなり草上仁してますが、それ以外の展開は、他の作品に比べると、少し草上色が少ないような気もしてしまいます。
個人的には、あまり点数が高くありません。まあ、ジャンルわけでも、SFではないようですから、これはこれでいいのかもしれませんが。
ただし、気になったところをいくつか。
二百二十三ページの最後の行から、次のページにかけての文章は、これは完全に校正ミスでしょう。「おせん」と書いてあるところは、すべて「ばるば」のはずです。こんなミスを作者がするとは思えないのですが、校正で修正するとも思えないし、なんでこんなことになってしまったんでしょう?
それと、これはミスではないのですが、二百七十二ページの後ろの方に、「榊のお守り」というのが出てきます。これ実は、五十三ページに出てきたものなんですが、これとは別に、「榊」という名前の登場人物がいるんですね。わたしは「あれ、お守りをくれたのって、榊だったっけ?」と、思わず前に戻って調べてしまいました。ちょっと混乱してしまいました。
蛇足ですが「ばるば」って、「バーバラ」のことなんでしょうか? 「たます」が「トーマス」はわかるんですが、「ばるば」だけがわかりませんでした。
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