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小説「サザンクロス」
パトリシア・コーンウェル著(講談社文庫)
全国書店ネットワーク e-hon

1999.08.29

 検屍官シリーズを読んでいるときには、パトリシア・コーンウェルという人は暗い人なのではないか、と思っていたのですが、この新しいシリーズを読むかぎり、結構陽気な性格の人のようです。ということで(どういうことで?)、コーンウェルの新しいシリーズ物(シリーズ名は何なんだ!)の新作です。  
 主要人物は前回と同様、警察署長のハマーと副署長のウエスト、それに前回では新聞記者でボランティア警官だったブラジルが、新人警官として名を連ねています。舞台は前回のシャーロット市からリッチモンド市に変わっています。  
 日本の警察機構のこともよく知らないので、アメリカがどうなっているのかは、なおさら知りませんが、そういう(ってのがどういうのかは、本を読んでください)派遣方法があるのかどうか、本当のところはまったくわかりません。もしかしたら、コーンウェルがひねり出したのかもしれません。  
 読んでいると、なんだかリッチモンドの警察官たちは、みんなやる気がないか、無能な連中のようで、こんな書き方していいんかい、と心配になってきます。リッチモンドといえば、あの「検屍官シリーズ」の舞台なわけで、訳者あとがきにも書いてありますが、女性検屍官、ケイ・スカーペッタの存在を匂わせるシーンが一個所あります。ばらしてしまいましょう(笑) 四百五十八ページの四行目。そこだけです(笑)  
 ストーリーとしては、あいかわらずいろいろと小さな事件が起こり、それをこなしぃの、大きな事件を追いかけぇの、という感じかと思ったら、それらしい大きな事件というのは、はっきりいってありません。コンピュータ・ウィルスの件を、もっと追いかけるのかと思っていたら、そうでもないし。不良少年スモークが、もっと早く大きな事件を起こしてくれるのか、と思っていたら、彼のメイン事件はラスト数ページだし。って、そりゃコーンウェルのいつものことか。  
 まあ、警官の日常を追いかけている、という意味では、前作同様あいかわらず、という感じがしなくもありません。  
 前作のように、文章の途中でいきなり視点が変わってしまうということはありませんが、ひとつひとつのシーンが、やけに短い場合があります。まあ、それはそれで映画的な手法という感じもしますし、シーンの切り替えのときに、前のシーンの最後の文章を、次のシーンの最初でで引き継いだりと、気を使っているのは確かです。  
 で、この作品を読んでいて気がついたのですが、この作者の性格なのでしょうか。登場人物の肌の色に関する描写を、あまり出さないようにしているようです。つまり、黒人なのか、白人なのか、東洋系なのか。まあ、東洋系の場合、名前を見ればなんとなくわかりますが、名前だけで白人と黒人を区別することは、わたしにはできません。はっきりいって、ずっと白人だと思っていた人物が黒人だったり、黒人だと思っていた人物が白人だったりと、ちょっと面食らってしまうことが、この作品を読んでいて、何回かありました。  
 まあ、肌の色がどうか、なんてことは、小説を読むときには、気にしなければ全然気にならないことなのでしょう。特にわれわれ日本人には、そういう感覚は薄いと思っています。でも、とりあえずアメリカが舞台で、しかも南部の、まだ人種差別のある地域なわけですから、そのあたりはかなり重要なポイントです。  
 コーンウェルがそういう描写をあまりしないのが、本人の意思からなのか、クレームが来るからなのかはわかりませんが、日本語訳したときには、せめて主な登場人物のところに、一言添えてもらえると、読んでいてイメージしやすいんですけどねぇ。と、思っているのは、わたしだけなんでしょうか?  


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