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1999.09.12
なんでも、この作者の「秘密」という作品が映画化されるのだそうで。あの作品を読んだときに、「これ、どこが推理小説なんだ?」と思った記憶があります。なんか、そっちの方の賞を取ったようなはなしだったので、わたしはてっきり推理小説だと思って読んでいたわけです。事故が起きた原因に何かあるんだろうとか、ふたりで謎を解明していくんだろうとか。想像はふくらみました。しかし「秘密」という作品は推理小説ではありませんでした。まあ、嫌いなタイプの小説ではありませんでしたし、読後感も悪くありませんでしたが、映画を観に行くかどうかはわかりません。というよりも、たぶん観ないでしょう。
さて「白夜行」です。例によってネタバレ注意の文章ですので、ここから先はお好みに応じてお進みください。
「秘密」と同じように、この「白夜行」も、純然たる推理小説というのとは、少し違うようです。もっともこちらは、殺人事件は起きますし、その他いろいろと事件は起こりますが、ストーリーは、その謎を解くという方向には進みません。物語は、二十年近くにわたって展開されます。大阪で起きた殺人事件と、その関係者の謎の死。その事件を二十年にわたって追い続けた刑事の、執念の物語。かと思うと、そうでもありません。たしかに、事件を追っている刑事は、たびたび読者の前に現れますが、この作品はそういう物語ではないのです。
主な二人の登場人物を中心に、その小学生時代から約二十年間のふたりの人生を、ほとんど絡ませることなく、物語は進みます。このふたりが直接顔をあわせるシーンは、作品中にはひとつもありません。ラスト近くになって、目撃者証言という形で、いくつかのシーンが語られますが、それさえも過去にさかのぼって、「そういうことがあったらしい」という程度です。しかし、実際にはこのふたりの人生が、まったく絡んでいないどころか、裏の方でしっかりと絡み合っているのだ、ということが、読み進んでいくうちに、わかってきます。
一方は、明らかに裏道を歩き続けているようです。一方は、一応明るい場所で生活しているように見えますが、どこかに必ず暗い影がつきまとっています。
このふたりの裏側には、いったい何があるのか。それが読者の興味になります。
はっきりいってしまいましょう。最後にすべての謎が解き明かされて、すっきりして終わる、ということはありません。いくつかの謎の真相は、刑事の推理という形で読者に提示されますが、それすらもあくまでも刑事の推理でしかなく、明らかなのもではありません。しかもラストは、はっきりいってすっきりしとは程遠い。ただし、そのすっきりしないという感覚は、この作品全体につきまとっている感覚ですから、この終わらせ方はたぶん正解なんでしょう。この作品を、もしヘタな二時間ドラマなんぞにしてしまうと、ラストの余韻は、たぶんぶち壊されてしまうに違いありません。
なんでそんなことを考えたのかというと、この作品を読みながら「二時間ドラマにしたがるプロデューサーはいるだろうな」と思ったからでした。展開が、できのいい二時間ドラマの展開、という感じがしたのです。ただし、ラストだけは二時間ドラマには向かない。事件がまったく解決しないまま終わってしまっては、二時間ドラマのファンは、たぶん納得してくれないでしょうから。
約二十年間にわたる物語の時代背景が、わたしが育った時代とほぼ同じせいでしょうか、わたしはなかなか面白く読むことができました。
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