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1999.09.26
この作品、帯や裏表紙を見ると「叙述トリック」云々と書いてありますので、たぶんジャンル分けすると推理小説に入るのでしょうが、前半には、その雰囲気がまったくありません。はっきりいって前半は、ホラー小説です。まあ、作品の狙いとしても、そういう形にしてあるんでしょうが。
さて、今回も例によってネタバレ満載ですので、これからこの作品を読む予定の方は、ここから先には進まないでください。
前半を読み終わったところで、疑問がいくつも残りました。前半はホラーの形態を取っていますので、それはそれでOKです。で、推理小説になるはずの後半で、その疑問がすべて解明されるか、というと、そうではありません。実際、後半になっても、推理小説にはなりません。感じとしては、サスペンスとホラーの中間ぐらいでしょうか。
前半に出て来るいろいろな怪現象の一部は、実は百物語で語られたものだった、というような記述やが、前半の途中や後半になってからいくつも出てきますが、いったいどこまでが現実で、どこまでが百物語として語られたものなのかは、はっきりしません。もっとも、登場人物たちも、どこまでが現実だったのかわからなくなっていた、ということなので、それも作者の狙いなのでしょう。が、ラストがちょっとホラーがかっているとはいえ、事件の犯人をはっきりさせて終わる、推理小説系のエンディングなので、すべての謎が解き明かされないと、読者としては少し消化不良気味になってしまいます。
最後まで読み終わったところで、「あ、これはやっぱり誤植だったんだ」というのがありました。五十四ページから五十六ページにかけて、何度か「桂ゆきえ」という名前が出てきます。ところが実際には、そういう名前の登場人物はいません。本当は「梓ゆきえ」なのです。わたしは最初、読者を欺くために作者が用意したトリックか、と思いました。「梓」と「桂」ちょっと読み飛ばしてしまうと、その違いには気づかないかもしれません。そのあたりを利用して、実際にはふたりの人物なのに、読者にはあたかもひとりの人物のように思わせておいて、あとになってから、実は別々の人物だったんだ、というような種明かしがあるのかな、と思っていました。ところが結局「梓」はあくまでも「梓」で「桂」は誤植だったようです。それを裏付ける記述が、三十四ページの下段四行目のあたりにありますが、じつは最初にそこをチェックしたときには、それこそがひっかけだ、と思ったのですが、そうではなかったようです。誤植は誤植でまあしかたがないと思いますが、それが一度ならず二度三度と出てくると、ちょっと気になってしまいます。特に推理小説だと思って読んでいるときには。
読者を欺く、という意味では、後半中ほどであかされる、作者が用意したかなり大きなだましが、ひとつあります。わたしはどういうわけか、かなり早い時点で気がついていましたので、事実を知ったときにも衝撃はうけませんでした。ずっとそのつもりで読んでいると、作者が苦労している記述がいくつもあって、「こりゃ気がつかない人は、かなりショックかもしれないな」と思っていたのです。
が、問題はそんなところにはありませんでした。種明かしをされて、それはわたしが想像していた通りだったのですが、よくよく考えてみると、その必要がどこにもないんですね。そうである必然性がない。それがちょっと残念でした。
あと、最後に犯人がわかった時点でも、少し唐突な感じを受けてしまいましたし、最後の最後に出てきた「クイズの答え」というのも、わたしにはわかりませんでした。それ以前に、「クイズ」そのものがよくわかりませんでしたし・・・・
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