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小説「幻想運河」
有栖川有栖著(講談社ノベルス)
全国書店ネットワーク e-hon

1999.10.17

 なんでも、本書は有栖川有栖の「裏」ベストワンなのだそうです。どのあたりが「裏」で、どのあたりが「ベストワン」になるのか、あいにくわたしにはよくわかりませんでしたが。  
 少なくとも、本格推理小説ではありませんし、バラバラ殺人事件が起きるからといって、猟奇的なおはなしでもありません。無理矢理こじつけるとすれば、ロマンチック・ミステリーとでもいいましょうか。たぶん、全然違うと思うけど。  
 裏表紙に「アムステルダムと大阪、二つの水の都をめぐる詩美性あふれるミステリとロジックの急流」なんて書いてありますが、大阪はプロローグとエピローグに出てくるだけで、物語はすべてアムステルダムで進行します。不勉強なわたしは、アムステルダムという国がどんな国なのか、さっぱりわからないのですが、この本を読むかぎり、非常に幻想的な国のようです。もちろん、実際のアムステルダムには、そうでない部分がたくさんあるのでしょうが、作者の狙いがおそらく、そういったイメージに向いていたのでしょう。たしかにロマンチックなイメージにあふれています。  
 ただ、本文中で大坂を日本のアムステルダムとしているところがあって、それが作者の考えなのか、単に作中の人物の発想なのかはわかりませんが、そのあたりは、わたしにはちょっとしっくり来ませんでした。  
 それはたぶん、わたしがずっと関東で生活していて、大阪に対するイメージが、「騒がしくて落ち着きのない街」という感じになってしまっているからでしょう。実際に大阪に行ったことは一度もないし、もちろんアムステルダムなんて行ったことはおろか、世界地図のどのあたりになるのかすら知りませんから、そのそれぞれのイメージが異なってしまうのは、完全にわたしのせいに違いありません。ただ、大阪を日本のアムステルダムとしている理由が「運河の町」だから、というもので、そこがわたしにはしっくり来なかったんですね。わたしにとって、日本の中で「運河の町」というと、江戸末期の深川ってことになっちゃって。もちろん、今の深川も、昔ほどではないにせよ運河の町なんでしょうが、わたしにとっては、あくまでも「江戸末期」(笑)  
 そういう意味では、大阪が日本のアムステルダムでも、かまわないといえばかまわないんですけどね。  
 本書の全体の流れとして、実際にはバラバラ事件が起きる必要はなかったんじゃないかな、という感じも受けてしまいました。特に、アムステルダム側での事件に関しては。もっとも、これがなかったら、大阪側の事件の必要性もなくなっちゃいますから、はずしてしまうことはできないんでしょうけどね。  
 この作品を「推理小説」として読もうとすると、足払いをくわされることになります。なんせ、アムステルダム側の事件に関しては、はっきりした結論がでてないような状態で終わってますし。まあ、全体的に「雰囲気を読む作品」と思えばいいのかもしれません。  
 ということで、殺人事件のトリック云々をここでいうのはおかしいんですが、ひとつだけ。あ、ここから先には、ネタばれがありますので、それがイヤな方は読まないでください。って、今回は、これが出てくるのが遅いな(笑)  
 船の側面のペイントがどうのこうの、という、まあたぶんトリックというほどのものでもないのでしょうが。これって、別に、運河の上でターンする必要はないんじゃないか、と。「ウマグマ」と「ブルームーン」は、もともと接岸面が逆だったということにしてしまってもよかったんじゃないか、と。ターンしてたら、かなり目立ったと思うんですが、いかがなもんでしょう?  


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