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小説「RED RAIN」
柴田よしき著(ハルキ文庫)
全国書店ネットワーク e-hon

1999.11.21

 時代は近未来。西暦二千年をちょいと過ぎたあたり。環境ホルモンの影響で、人も街も様変わりしています。人工は激減し、経済は悪化し、酸性雨の毒性を人々に警告するために、無害な着色料を雨雲に散布したため、雨は赤いものになってしまった。そんな世界が舞台になった物語です。荒廃した世界とはいっても、「マッド・マックス」や「北斗の拳」のような世界ではありません。基本的には、今の世の中の延長上にある世界です。  
 個人的には、好きなタイプの作品です。  
 赤い雨そのものは、物語そのものに直接影響を及ぼす設定ではありません。それは、この作品全体の雰囲気を作り出すために用意された設定です。ストーリー上問題となるのは、数年前に地球に近づいて来た巨大彗星。彗星そのものは核爆弾によって無事に破壊されたものの、持ち帰られた破片から流出した物質によって、Dタイプと呼ばれる人々が生み出されることになってしまいます。犬歯が以上に大きくなるなどの、何段階かの小さな変化の後、最終段階になると、強いストレスによって髪が逆立ち体が輝き、人間とは思えない力を発揮する。そして、人間の血を吸う。Dすなわち、ドラキュラの頭文字です。  
 ここでへそ曲がりなわたしは、最初の疑問を持ちます。なぜ、ドラキュラなんだ、と。バンバイアじゃないのか、と。DじゃなくVなんじゃないか、と。  
 まあ、そんなことはたいした問題ではありません。  
 Dタイプというのがどんなものなのか、細かい説明は省きますが、特殊な伝染病のようなもの、と思ってください。ホントはちょっと違うんですが。で、本来Dタイプは、自分がDタイプだとわかった時点で、出頭することを義務づけられているわけです。出頭したからといって殺されてしまうわけではなく、保護施設があって、そこに隔離されてしまうわけです。が、実際にはなかなかそうもいきません。そこでこの作品の主人公。Dプロジェクトの特別警察に所属する女性隊員で、仕事はDタイプの保護。実際には保護が目的なんですが、抵抗された場合には、市民と自分の安全のために、Dタイプを射殺するのが仕事です。  
 で、最初の方でその主人公が「自分がDタイプだとわかったら出頭する」というようなことを同僚と話します。となれば、物語の展開上、やがて彼女がDタイプになってしまうだろう、ということは予想できます。もしDタイプにならなかったら、それは作者のミスです。その点、この作品がどうなのかは、読んで確認してください。  
 全体的には気に入った作品なのですが、不満もたくさんあります。  
 まず、一番気になったのは、随所に現れる行あけ。たとえばその開けられた一行の間に、時間が経過していたり、場面が変わっていたり、そういった状況の行あけならばいいのですが、基本的には間(ま)としての隙間なのです。時間も場所もそのまま繋がっているのに現れる隙間が、ちょっと気になってしまいました。  
 それから、これはそれほど大きな問題じゃぁないんですが、もう少し伏線が張ってあったらよかったかなぁ、と。皇居跡のトイレとか、「オーロラ」とか。なんとなく、そのときになって必要になったから出した、という気がしてしまって。前の方にほんのちょっとだけでも出してあったら、「おお、ここで出てくるか」と思えたんでしょうが。  
 あと、これはわたしだけの感想かもしれませんが、盛り上がりがないような気がしてしまいました。一般的に「クライマックス」と呼ばれる盛り上がりが、ないような気がしたのです。感じとしては、長い長い物語のプロローグ、という印象を受けてしまいました。できれば、そんなことはしないで、このまま終わらせてもらいたいんですが。  


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