縦書きで読む
[ 小説の感想文のようなモノ ]
この本は ここで 買えます
小説「ノイズ」
ロバート・タイン著(扶桑社ミステリー)
全国書店ネットワーク e-hon

2000.01.09

 宇宙空間で船外作業中に、2分間通信が途絶えた二人の宇宙飛行士。結局彼らは無事に帰還するのだが、やがて一方が急死し、その妻も自殺を遂げる。残されたもうひとりの宇宙飛行士の妻は、時々自分の夫が別人なのではないかと感じるようになり、赤ん坊を身ごもると、その不安が恐怖に変わっていく。  
 といった内容で、たしか2月あたりに公開される映画の、ノベライズです。原題は「ASTRONAUT’S WIFE」つまり、「宇宙飛行士の妻」ってことで、主人公は生還したパイロットの妻です。  
 なんでも、聞いた話によれば、宇宙へ行って、無限に広がる闇や蒼く輝く地球を見てきた人は、ものの考え方や人生観が変わってしまうのだそうで。場合によっては、多少性格が変わることもあるのだそうです。あいにくわたし自身はもちろんそうですし、わたしの知り合いにも、宇宙へ行ったことがあるという人はいませんので、行く前と後でどの程度性格が変わってしまうものなのか、はっきりしたことはわかりません。どのぐらい変わるのかはわかりませんが、中には「いっぺん宇宙行って性格変えて来んかい!」といいたくなるような奴もいますけど。その筆頭がわたし自身だな。  
 それはそれとして。この作品では、宇宙へ行っただけでなく、そこで事故にあい、2分間も交信を絶つという目にあった男の妻が感じるであろう不安が、あまり巧みとはいえないような感じで描かれています。いや、不安そのものは、巧みに描写されてるんですけどね。宇宙へ行く前と後とで、夫の性格がどの程度変わってしまったのかが、あんまり実感として湧いてこないんですね。描写の中には「以前はこうではなかった」といった感じの描写がかなりあるんですが、その「以前」が、あまりリアルタイムに描かれてはいないんですよ。とはいっても、宇宙に行く前にあんまりページも割かれても、読んでる方が退屈しちゃいますから、これはまあしょうがないのかな。  
 で、やがて主人公は赤ん坊を身ごもるわけですが、ここでまた不安が膨れ上がるわけですね。夫が別人になってしまっているとしたら、お腹の赤ん坊はいったい何者? ってことです。このあたりの恐怖は、過去にも小説や映画で取り上げられたことがあります。  
 聞いたところによれば、妊娠すると情緒不安定になる人もいるのだそうで。あいにくわたしは、いまだに赤ん坊を身ごもったことがないもんで(って今後もたぶんないでしょうが)、そういう場合の不安に対しては、漠然と「そういうこともあるだろうなぁ」ぐらいにしかわからないんですが。この作品では、そのあたりの不安感と、お腹に子供がいるということで女性が抱く幸福感との葛藤は、うまく書けているんじゃないかなぁ、と思いました。もちろん、どちらの感覚もわたしにはあくまでも想像でしかないわけで、実際にはまったく違うのかもしれませんが。  
 余談ですが、女性というのはおおむね、妊娠した時点で無条件に母親になれるのだそうです。そりゃそうですよね、父親がだれかは別にして、間違いなく自分が母親なわけですから。それに対して、父親というのは、父親になる努力というのを重ねなければならないのだそうです。そういう意味では、努力が嫌いなわたしは、一生父親にはなれない、ということですか。妊娠させることはできるかもしれないけど(笑)  
 話がそれたな。  
 で、この作品の結末です。解説には、「クライマックスにあっと驚く仕掛けが用意してある」と書いてありますが、わたしはどこで「あっ」と驚けばいいのか、結局わかりませんでした。ほとんどひねりなし、ストレート。予想できる結末のうちのひとつでした。  
 気になったのは、産婦人科医や主人公の妹がどうなったのか、ということぐらいですか。  


Copyright(c) 1997-2007 Macride
ご意見ご感想は メール 掲示板
以下はみなさんからいただいた感想です
俺にも言わせろ!という方、自分の書き込みを削除したい方は