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[ 小説の感想文のようなモノ ]
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小説「模造世界」
ダニエル・F・ガロイ著(創元SF文庫)
全国書店ネットワーク e-hon

2000.01.24

 この手の作品に触れると、自分のまわりにあるものが、信じられなくなってくる。最近では映画「マトリックス」を観たあとがそうだったし、過去にも岡嶋二人の小説で「クラインの壷」なんてぇのとか、作者の名前を忘れてしまったのだが、高橋なんとかって人の「クリス・クロス」なんてぇのもそうだった。「ループ」も一部そんなところがあるかな。  
 つまりこの作品は、そういったおはなしです。  
 究極のバーチャル・リアリティのおはなしというのは、かなり以前からあったんですねぇ。この作品、1960年代に発表された作品だということです。読んでみればわかりますが、たしかに内容がちょいと古臭い。今ならせいぜいチップとかメモリーとかいいそうなところで、ドラムなんぞが出てきちゃうんですから。ドラムったって、「おいらはドラマー、ヤクザなドラマー」の、あのドラムじゃありませんよ。  
 まあ、書かれた時代背景が古いから、それはそれでしょうがないでしょう。作品の時代設定が、どのあたりなのかはよくわかりませんが(って、わたしが読み飛ばしちゃっただけかもしれませんが)、どうも二千年をちょいと過ぎたところ、といった感じです。もうじきですぜ、もうじき。  
 さて、コンピュータの中にほぼ完全な世界を作りあげて、その中で色々なことをシミュレートしてしまおう、という発想のもと作り上げられた、シミュラクロン−3。その世界では、われわれの世界とまったく同じように生活している人々がいて、彼らは自分達がシミュレーションの世界に住んでいることを、まったく知りません。このお話しは、そのシステムを作った人間の視点で描かれています。ってことは、別に自分がシミュレーションの世界に入ってしまうわけじゃありませんから、「マトリックス」とはちょいと違うかな、と思っていると大違い。一応、シミュレーション世界の人物に自己投影して、その中には入り込めるんですね。このあたり「ループ」の作者はこの作品知ってたのかな、という気がしないでもありません。まあ、それほど特殊な発想じゃないでしょうから、偶然かもしれませんが。  
 この作品の作者が真剣に隠そうとしているようには思えない節がありますので、平気でばらしちゃいますが、主人公の住んでいる世界もじつはシミュレーションの世界で、あまりにリアルに作られていて、シミュレーションの世界でまたシミュレーションを作っちゃった、ということなわけです。  
 で、主人公は、シミュレーションの世界の中でとはいえ、シミュレーションを作った技術者のひとりなわけですから、自分がシミュレーションの世界の人間だ、とわかったときには、当然自分をシミュレートしている人間がいる、ということとか、その人物が何をどう構築したかとか、今後どうする可能性があるとか、そういうことがわかっちゃうわけですね。しかも、こっちの考えていることはむこうにはわかっちゃうだろうし。  
 と、こうやって書くと、わけのわからないはなしのように見えますが、じつはそんなことはありません。  
 書かれた時代がちょいと古いから、表現や発想がちょいと古めかしいところもありますが、内容そのものはわかりにくいなんてことはないし、どちらかというと、「もっと早く気がつけよ」といいたくなるぐらい、主人公は自分が置かれている立場に気づきません。たぶん読者を含めて、主人公の置かれた立場に最後に気づいたのは、主人公本人でしょう。そのぐらい、読者にとってはわかりやすい内容です。  
 最後のオチは、ちょいとびっくりしましたが。そんなんありか、と思いましたが、一応伏線もどきは張ってありましたから、よしとしておきましょうか。  


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