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小説「人格転移の殺人」
西澤保彦著(講談社文庫)
全国書店ネットワーク e-hon

2000.03.03

 人格が入れ替わってしまった六人の男女。閉ざされた空間の中で繰り広げられる、連続殺人というにはちょっと乱暴な殺人。犯人はいったい誰で、狙われているのは誰なのか。そもそも、なぜ殺人を犯すのか。くるくると人格が入れ替わってしまうために、読んでいる方は、やがて誰が誰やらわからなくなってしまうかもしれません。  
 なにしろ、人格が入れ替わった状態で死んでしまうと、物理的に被害を受けた肉体が死ぬのは当然として、そのときたまたまその肉体に入っていた人格が死んでしまうわけです。つまり、A氏の肉体にB氏の人格が、B氏の肉体にC氏の人格が、C氏の肉体にA氏の人格が入っていた場合、A氏の肉体を殺すと、中に入っていたB氏の人格も滅びてしまい、残るのは、C氏の人格が宿ったB氏の肉体と、A氏の人格が宿ったC氏の肉体なわけで、そうなるともう、誰が誰をころそうとしているのか、さっぱりわかりません。  
 人格交換ネタというと、有名なものでは大林宣彦監督の「転校生」という映画があります。マンガなどにもよく使われる題材でしょう。ただし、基本的には人格が入れ替わってしまったことによる、戸惑いや失敗をベースにした笑いを誘う作品の方が多いようです。その点この作品は、人格が入れ替わってしまったことに起因する殺人をテーマにしているところが、異色といえば異色でしょう。  
 そもそもすごいのが、人格が入れ替わる理由。誰がいつ、どんな目的のために作ったのかもわからない装置で、一度人格が入れ替わってしまうと、その後不定期に入れ替わりを繰り返してしまうという、謎の装置。  
 その装置の謎については、結局最後まであかされません。どういうしくみで人格が入れ替わるのかはもとより、いつ誰が作ったのかすら、謎のまま終わります。ただその目的だけが、登場人物の意見として、おそらくそれが正解なんだろう、というものがラストにあかされます。その目的というのが、なかなか洒落ていて、わたしは気に入りましたが。  
 この作品を、SF小説と定義するか、推理小説と定義するかは難しいところでしょうが、基本はやはり推理小説になるようです。作者本人もそのつもりのようですし。  
 発想として、最初にどれがあったのかはわかりません。人格が入れ替わっているときに殺人が起きた場合、犯人が殺したかったのは、その肉体か、それともそのときその肉体に入っている人格か、というアイデアがまずあった場合も考えられますし、逆に、人格が入れ替わる装置っていうのがあったら面白いだろうなぁ。そんなときに殺人事件があったら、もっと面白いだろうなぁ、というアイデアがあったのか。  
 と、こう書くと、どっちも同じアイデアのような気もしてきますが。  
 たぶん、書く方も大変だったでしょうが、読む方もかなり大変です。今誰の人格が誰の肉体に入っていて、襲われているのが誰で、襲っているのはいったい誰なんだろう、なんて考え始めると、もう面倒臭くなってきて、結局誰が誰でもいいや、という気にもなってきます。ひょっとしたら、それが作者の狙いだったのかもしれませんが。  
 とりあえず、疑問をひとつ。  
 本編の事件そのものとは直接関係ないのですが、人格交換装置があった場所にショッピングモールができてしまい、その入り口の場所にファーストフードの店ができてしまった、というのはいいのですが、その店のオーナーが、政府機関とまったく関係ない、ってのは、ちょっといただけません。なにしろかなりやばい品なわけですから、破格の値段でその場所の権利を売ったり、逆に金払ってまで使わせたりってなことは、まずしないでしょう。もしそこに店を開くとしたら、政府直営で、ファーストフードの店でも、店長は政府機関の人間のはず。  


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