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[ 小説の感想文のようなモノ ]
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小説「魔法飛行」
加納朋子著(創元推理文庫)
全国書店ネットワーク e-hon

2000.03.05

 本書を書店で手に取って、解説に目を通してみたら、これが「ななつのこ」という作品の続編というか、同じ主人公のシリーズものであることを知り、そのまま「ななつのこ」も一緒に買って来て、結局一気に読んでしまいました。  
 なぜわたしがこの本を読んでみる気になったか、ということは、表紙をめくってすぐにわかります。最初にあるあらすじの冒頭に「私も、物語を書いてみようかな」と書いてあったからです。つまり、うちのサイトの趣旨にマッチしている、と。  
 もちろん、作者はド素人ではありません。「ななつのこ」で鮎川哲也賞を受賞している、という意味では、それまでは素人だった、ということもできるのでしょうが、少なくとも、賞を受賞するだけの力があったわけですから、ド素人といってしまうのはまずいでしょう。  
 まあ、そんなこんなで、今回は「ななつのこ」と「魔法飛行」の両方の感想を書くことになると思います。  
 まず、読んでいて思ったのが、「これが女性の言葉だよな」ということ。変な感想だと思われるかもしれませんが、そう思ってしまったのですから、しかたがありません。  
 女性作家の中には、たぶん意識してでしょうが、地の文では女性的な記述を排除している人もいます。まあ、そういう人だって、本書のように、主人公の一人称で書いた場合にはまた違うんでしょうが。本書は、女性が女性の視点で書いた一人称の作品ですので、当然語り口も女性のものです。この語り口が、明らかに女性のものなんですね。  
 よく、男の作家の書いた作品で、女性のセリフといえば「〜ですわ」とか書いてある作品がありますが、あれを見ると、わたしは読む気を失ってしまいます。もちろん、それがかなり前に書かれた作品ならば、それはそれでいいのですが、現代を舞台にしていて、しかも登場人物のその女性が高校生や大学生、あるいはOLやら普通の家庭の主婦の場合、ほとんど絶対といっていいぐらい、「〜ですわ」なんぞという言い方はしないんですね。そういうしゃべり方をする人が、まったくいないとはいいません。ただ、どちらがよりリアルか、というと、本書のようなしゃべり方のほうが、よりいっそうリアルであることは、間違いないでしょう。  
 これでこの作者が実は男性だった、なんてことになったら、わたしは惚れ込んじゃいますね。  
 なおかつ、この作者の文章は、非常に読みやすい。女性の一人称の作品が読みにくい、というわけではありません。この作者の文体が、わたしにあっている、ということだと思います。二冊を一気に読み切ってしまいましたから。  
 それと、このシリーズは、誰がなんといおうと間違いなく、推理小説なのですが、人はひとりも死にません。仮に死んだとしても、かなり以前のことで、しかも交通事故だったりします。つまり、事件としては、日常にあたりまえのように起きるであろうことを題材にしているんですね。倉知淳の「猫丸先輩シリーズ」も、同じような感じでしたが、本書の方が、謎としては身近です。ものによっては、主人公が謎だと思っていないものまでありますし。  
 この作品のパターンは、推理小説の世界では「アームチェア・ディティクティブ」といわれていて、探偵が一切現場に足を運ばずに、語り手のはなしからすべてを推理してしまう、というもので、外国のものでは「ブロンクスのママ」シリーズやら「隅の老人」シリーズが、日本のものでは「退職刑事」シリーズなんぞがあります。あいにくわたしは、「ブロンクスのママ」は一度も読んだことがないのですが。  
 そういう意味では、読者は探偵と同じだけの材料を与えられていることになります。それでいて探偵には謎が解けて、読んでいるこちらには解けない、というのは、悔しいという気持ちと、謎が解けたときの「そうだったのか」という爽快感の、両方を味わうことができるのも、この手のパターンの特徴でしょう。ただし、本書の謎ときは、爽快感を得られるというほどのものではないような気もしますが。多少無理があるんじゃないか、という気がするものもありましたし。  
 その代わり、ということはないでしょうが、作品全体を包んでいる暖かい気持ちというのが、読後に残って、これはこれでとても気持ちのいいものです。  
 謎といえば、「ななつのこ」の方に出てくる謎の男の正体は、読んでいるうちになんとなく見当がつきます。  
 このシリーズが、これ以降も書き続けられているのかどうか、わたしは知りませんが、もしまた続編を見つけたら、きっと無条件でレジに走るでしょう。  


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