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[ 小説の感想文のようなモノ ]
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小説「ゼウス」
大石英司著(ノン・ノベル)
全国書店ネットワーク e-hon

2000.03.20

 じつは、この本を書店でみつけてから、買って読み始めるまでに、一ヶ月以上あいだがあいてしまいました。なぜかというと、背表紙や帯に書かれている概要に、ちょっと引いちゃったからなんですけど。タイトルの上に書いてある「人類最悪の敵」という惹句にも、少々怪しげな印象を受けました。でもまあ、突っ込み入れるにはいいかな、とたかをくくって読み始めたら、これがまた、結構おもしろいんですね。モンスターの印象は、「エイリアン」の印象が拭えない部分もありますし、本文中でも登場人物に「まるで映画のエイリアンだ」といわせてますが、それを補って余りある展開のテンポの良さで、一気に読み切ってしまいました。  
 もちろん、突っ込みどころもいくつかありますが、読み終わってみると、それもどうでもいいかな、という感じもします。でも一応、わたしが疑問に思ったところをあげておきましょうか。  
 もっともひっかかったところは、物語の前半。主人公の鎌田亮(とおる)の名前が出てくるときに必ず後ろに「少年」という文字がつくんですね。「鎌田亮少年」と。これが何度も何度も出てくる。たしかに、この少年は中学三年生ですから、「少年」と呼ぶことがおかしな年齢ではないのですが、やたらと「少年」を連呼されると、読んでいるこちらもちょっと気になってくる。しかも、同じ中学三年の韮沢明海が出てきたときには「韮沢明海少女」とは記述していない。これがすごく気になりまして。  
 ところが、これが後半になると、鎌田亮に「少年」という文字をつけなくなる。それは、彼が精神的に成長し、「少年」ではなくなったからなんですが。じつは、それが理由だったんですね。前半では、彼はまだ「少年」でした。それが、物語が進むにしたがって、「男」になってくる。まあ、多少無理がある部分もあるような気もするんですが。とにかく、敵と戦い続けるうちに、たくましくなってくる。それを表現するための、前半の「少年」の連呼だったわけです。まあ、贅沢をいえば、そういう手法ではなく、前半では彼がまだ少年であることを、彼の言動や考え方で表現してもらいたかったかな、という気もしますが、はっきりいって、それをやっていては、おそらくテンポが悪くなってしまったことでしょう。そういう意味では、まあよしとしましょうか。  
 あとは、細かいところですが、四十七ページの下段。「右上に機密書類とスタンプが押された」って、アメリカの資料のはずなんですが(笑)  
 あと、モンスターがゼウスと呼ばれるようになる理由が、学者のひとりが「まるでゼウスだわ」と言ったことからなのですが、元のゼウスがなんだかわからなくて、わたしにはなぜゼウスなのかさっぱりわかりませんでした。  
 まあ、たぶん細かく見ていくと、もっと突っ込みどころはあるのでしょうが、読み進んで行くうちにそれを忘れさせてしまうところは、すごいなぁ、の一言です。  
 ただ、最初にも「エイリアン」の印象と書いたように、どことなく「どこかで見たような」と思わせる部分があります。モンスターの雰囲気と、自衛隊の活躍という部分は「ガメラ2」を彷彿とさせますし、モンスター誕生の由来は、クーンツあたりが書きそうな感じです。ただ、クーンツと違うところは、クーンツならばおそらく特定の人物を主人公にして、その人物を中心に物語を進めるだろう、ということ。こちらは、たしかに鎌田亮が主人公ではありますが、自衛隊の方にもしっかりとスポットが当たっています。このあたりは、個人を尊重するアメリカと、集団を尊重する日本の気質の違いでしょうか。  
 あとは、全体の流れの感じが、小松左京の「日本沈没」やら「復活の日」やら「首都消失」やら、といったいくつかの大作に感じが似てるかな、というのもあります。そういう意味では、この作品も、スケールが大きいということでしょうか?  
 上手いなぁと思ったのが、まず舞台を北海道にしたこと。これによって、前半の舞台をある程度固定できるとともに、後半に行くに従って広がっていくようにできたのではないでしょうか。  
 それと、モンスターが人間を襲う理由がまたいい。繁殖のためってのもまたすごい理由ですが、特に、なぜやたらと食うのかという理由がいい。体の大きさに比べて上半身が細いので、すばやい動きができるぶん、胃の能力が劣るため、しょっちゅう食べていないとエネルギーが摂取できない、ときた。こういう部分のリアリティがあるだけで、荒唐無稽なおはなしも、おもしろくなるってもんです。  
 映画化されてもおかしくない気がしますが、下手な映画化だったらやめてほしいな。  


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