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[ 小説の感想文のようなモノ ]
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小説「ナース」
山田正紀著(ハルキ・ホラー文庫)
全国書店ネットワーク e-hon

2000.08.20

 さて、ひさしぶりの「小説の感想文のようなモノ」です。もちろん、活字中毒のわたしが、いままで全然小説を読んでいなかったわけではありません。平均すれば、少なくとも週に一冊は読んでいたはずです。にもかかわらず感想文のようなモノを書かなかったのは、どの作品も感想の書きようがなかったというかなんというか。どれもひどかった、という意味ではありません。すばらしい作品もいくつもありましたが、わたしの性格上、すばらしい作品の感想を書くというのが、どうもできないようでして。ということになると、今回取り上げているこの作品が、かなりひどいってことになりそうですが、そんなこともありません。もっとひどい、突っ込みの入れようのない作品もありましたから。そういう意味では、この「ナース」という作品は、適度に不満があって、文句がつけやすかった、と言うことになるのでしょう。  
 考えてみると、山田正紀の作品を読むのは久しぶりかもしれません。かなり昔に、「神狩り」だの「崑崙遊撃隊」だの「弥勒戦争」だのを読みあさった記憶があります。最後に読んだ作品がなんで、それがいつごろだったのか、ちょっと思い出せません。やはり記憶力は低下しているようです。  
 タイトルからもわかるとおり、主人公は看護婦です。それも、日本赤十字の看護婦チームの七人組。この七人が、ジャンボ機の墜落現場で遭遇した化け物と戦う、というあらすじのホラー小説です。  
 で、ここからは例によってネタばれ満載ですので、先をお読みになる方はそのつもりで読んでください。  
 まずわたしが思ったのは、「山田正紀って、こんな文章書く人だっけ?」ということでした。なんだか、読んでいて文章がくどいような感じがしたんですよ。場合によっては、同じものを表現するときに、まったく違う個所でまったく同じ言い回しを何度も使っていたりもしましたし。これが、意識してやっていることならばかまわないのですが、読んだ感じとしては「手ぇ抜いてるんじゃないか」と、ちょっと感じてしまいまして。たとえば、志保に対する表現で「残念なことに看護婦としては無能と言わざるをえない」という表現が、何度か出てきます。文字どおりそのまま同じ表現が使われるのです。これって、なんだか安直な表現方法のような気がしませんか?  
 全体の構成も、少し気になりました。  
 冒頭でいきなり、看護婦たちはすでに事件の真っ只中にいるんですね。とりあえず、読者に細かい説明はせずに、話しは進んで行きます。それはべつにかまいません。先に進めば、それなりの説明も用意されていますから。でも、この作品の構成としては、そういう形をとるよりも、ジャンボ機が墜落するより少し前の時点から話しを始めた方が良かったんじゃないかなぁ、という気がします。  
 看護婦たちの日常、それはもちろん充分忙しいものだとは思いますが、化け物と戦うなどという非日常的な状況から始めるのではなく、あくまでも普段の生活の場面から始めた方が良かったのではないか、と。その中で、各個人の性格やら心の中を描写したり、相互の関係をきちんと描写した上で、ジャンボ機が墜落し、その現場に赴く。こういう段取りではなしを進めた方が、それぞれのキャラクターももっとはっきりしたのではないか、と思います。たとえば、いっそのこと新人の愛子が赴任したところから始めて、前半は愛子の視点で他の先輩たちを描写してもよかったのではないでしょうか?  
 もちろん、読者をいきなり事件のど真ん中に放り込んで、あとはノンストップで事件を進めて行くという、この形式が悪いというつもりはありません。ただこの作品の場合、時間にそった展開にした方が、おもしろかったんじゃないかなぁ。単純に、ジャンボ機の墜落現場に救助活動として派遣された看護婦が化け物に襲われて、という前提が、今のままではイメージしにくいんです。なんだか、最初から特殊部隊のメンバーなんじゃないか、という気がしてしまって(笑)  
 あとはまあ、化け物の倒し方なんですが。看護婦らしいといえば看護婦らしいやり方で、それはそれでOKなんですが。最後の敵を倒す方法が、いまいちストレートすぎた感じがしてしまいました。青い光というのが、町に戻った志保が正気を取り戻したきっかけのように書いてありましたから、それが何かのキーワードになるのかと思っていたんです。たしかに災害現場っていうのは、赤い光の方が多いようですから。でも、残念ながらそうではありませんでした。  
 プロに対して非常に失礼な言い方かもしれませんが、頭に浮かんだイメージをそのまま文章にしたような感じです。倍ぐらいの長さに書き直したら、すっげぇおもしろい作品になるのかも。  


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