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[ 小説の感想文のようなモノ ]
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小説「模倣犯」
宮部みゆき著(小学館)
全国書店ネットワーク e-hon

2001.04.08

 最近はどうしてみんな、こうも分厚い本を出すんでしょう。しかも上下二冊もあったりして。まあ、長いだけで退屈な作品だったり、長いのが苦痛になるような、読みにくい作品だったりはしないから、それは良いのですが。本を読むのが、寝床の中か通勤電車の中だけ、というわたしのような人間には、ちょいと辛いです。特に、電車の中であの分厚い本をカバンの中から取り出すのは、ちょっと恥ずかしい感じもしますし。  
 それはそれとして。宮部みゆきという人のすごいところは、読んでいるあいだ、作者が女性だということを、忘れさせてくれるところでしょうか。まあ、そういう女性作家は他にも大勢いますから、それは別に宮部みゆき特有のことではないのでしょうが。  
 以前わたしが論旨を展開した(ってほどのことはしてませんから、確認したりしないように(笑))、宮部みゆきの作品の分類方法。二つの時代と三つのタイプからいくと、この作品は社会派現代ものということになるでしょう。そういえば、「理由」の感想文のようなモノで、その年のベスト5に入るでしょう、と書いたら、どうもその程度じゃなかったようで。なんだか、賞も取ったそうで。わたしにはそこまで見とおすことができなかったわけですから、この感想文のようなモノも、その程度、ということなんですが。  
 で、その「理由」と比べると、それほど暗くはないんですが、なにしろこの作品は長いです。もちろん、天下の宮部みゆきのこと、ただ無駄に長い話しを、書くはずがありません。長いのにはちゃんと理由があります。  
 で、そのあたりの話しをしようとすると、当然内容に触れることになります。ただ、この作品は、本格推理ではありませんから、誰が犯人かとか、犯人はどうやって閉じられた部屋から出ていったのか、といったような謎はありません。そういう意味では、内容がある程度わかっていても、充分楽しめる作品ではありますが、白紙の状態で作品に触れたい、という方は、ここから先は読まないで、まず先に上下二冊、ページにして約1500ページ、原稿用紙3551枚(これは帯に書いてあります)の大作を読んでください。  
 まずこの作品、全体が三部構成になっていて、まず第一部で事件を外側から、つまり、被害者やら警察マスコミの側から描写します。この時点では、犯人はわかっていませんが、なんと第一部のラストで、犯人が死んじゃうんですね。次の第二部で、捜査が展開するのかと思ったら、時間が戻って、今度は犯人の側から事件を描写するんですね。この時点で、読者には犯人が知らされます。で、第一部と同じところまで時間がたどり着くと、第二部が終わります。  
 で、今ここを読んでいるかたは、既にこの作品を読んで内容をご存知の方か、内容わかっちゃってもいいや、という方でしょうから、平気で書いちゃいますが、第一部のラストで死んだ二人の犯人のうち、一人は犯人じゃないわけです。しかも、第三部には、ちゃんと真犯人も登場して来るし。  
 こうなると、読者の興味は「警察は真犯人にたどり着くことができるのか」という方向に行きます。ところが、このあたりがうまいところで、なかなか話しをそういう方向に持っていってくれないんですね。じらすことじらすこと(笑)  
 このあたりは、「うまい!」と誉めるか「もう少しそのあたりの盛り上がりを!」と思うか、意見が分かれるところかもしれません。個人的には、刑事コロンボのような展開も少々期待したんですが……周到な犯人が犯した、ほんの小さなミスから、堤防が決壊するようにすべてが崩れていく、というような展開を。  
 あいにく、この作品ではそういう展開は見せません。まあ、狙いがそういう方向には向いていない、ということは、第一部、第二部と読んでくればわかりますから、それを期待するのは、やはり間違いなんでしょうけど。  
 犯人のボロの出し方というのが、ちょっと唐突というか、「え、それだけ?」という気がしなくもないのですが、そこまでの犯人の性格からすると、まあ、それほどおかしくもないかな、という感じではありますし。  
 「模倣犯」というタイトルの意味も、ラストになって、はじめて明らかになります。そういう意味では、このタイトルのつけ方、うまいんだかうまくないんだか、わたしにはよくわかりませんが(笑)  
 そうそう。宮部みゆきといえば、子供の描写やセリフのうまさが秀逸ですが、この作品には、あまり子供子供した子供は出てきません。主要人物の一人が、少年だというぐらいですか。そのあたりがちょっと残念だったのですが、ラストのラストで、しっかりと小さい子供を出してくれて、それがまた秀逸で。とにかく、人物描写の凄さはみごとです。  


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