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[ 小説の感想文のようなモノ ]
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小説「13階段」
高野和明著(講談社)
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映画「13階段」の感想のようなモノを読む

2001.09.16

 第47回江戸川乱歩賞の受賞作です。第45回の受賞作「八月のマルクス」の感想を書いて以来、乱歩賞受賞作を取り上げるのは、これで二回目です。あれ? 第46回の受賞作の感想分を書いてないなぁ、と思ったら「脳男」は読むだけ読んで感想書いてませんねぇ。なんで書かなかったんだろう、面白かったのに。「脳男」もなかなかお勧めですよ。  
 それはそれとして「13階段」です。  
 ほとんどの人がそうだと思うのですが、13階段といわれて思い出すのは、やはり死刑台への階段でしょう。ですが、この本を読むと、少なくとも日本では、そういうものはないようです。アメリカでも電気椅子が主体のようなので、実際に13階段がある処刑場ってのは今ではないのかもしれません。  
 でも、この本のタイトル「13階段」は、実際の処刑台への階段というよりも、イメージとしての階段であって、このタイトルのつけかたはうまいといって良いでしょう。  
 死刑の宣告を受けた人物の無実を晴らす、というストーリーは、目新しいものではないかもしれません。しかも、刑の実行までの期限があとわずかしかない、という足かせも、どちらかといえば古臭いかもしれません。しかしこの作品では、多くのアイデアを投入することで、それを払拭しています。  
 まず主人公。過失致死で二年の実刑判決を受け、仮釈放で出所したばかりの青年、純一と、彼が服役していた刑務所の刑務官だった男、南郷という組み合わせは、かなりめずらしいものではないでしょうか。しかも、ふたりとも心に傷があったり悩みがあったりして、こういうのをキャラクターがしっかりできている、というのかもしれません。  
 この作者が、実際に服役していたかどうかはわかりません。巻末の著者紹介にも、そのようなことは載っていませんので、おそらくそういう事実はないのでしょう。なにしろ、小説家をふくむ、文章を書く仕事というのは、過去だのその人の人間性には、あまり関係がないようで、過去に何をしていたかなんて、気にしないどころか、刑務所に入っていたということがウリになっちゃう場合だってあるわけですから。それが書いてないということは、おそらく全て調べたことなのでしょう。参考文献の記載も、かなりの量になります。その結果書かれていることが真実かどうか、ということは、一般の読者には実は関係ないことなんですね。それがたとえ大嘘だったとしても、ホントっぽく書いてあれば、作品の世界の中でおかしな部分がなければ、それは問題ないんです。事実を知らない読者はそれをそのまま受けとめる。問題は、真実を知っている一部の人がそれを読んだときにどう思うか、ということなんです。大嘘が書いてあると思うか、良く調べてあるなぁと思うか、まあこの程度の嘘なら許せるな、と思うか。  
 じつはこの「調べる」ということに関しては、いつか「小説のようなモノの書き方」の方でも取り上げようと思っているのですが。小説を書くために色々な資料を調べて、その結果大切なことを、この作者は参考文献の最後に書いています。つまり「参考資料の主旨と本書の内容は、まったく別のものです」ということ。これは書いている間にも、意外と混同してしまいがちなことなんです。  
 それはそれとして。  
 この作品は、選考委員全員一致で受賞が決定したそうで。たしかに、それだけの作品だろうと思います。久しぶりに一気に読みきってしまいました。  
 死刑囚が、犯行時刻前後の記憶を失っているために、本当はいったい何があったのかわからないという設定も、ちょっと無理があるような気がしないでもありませんが、逆にそうでもしないとこの作品は成り立たないでしょう。  
 かつて純一が家出をしたときに、そこでいったい何があったのか、ということは最後の最後に明かされます。そのために、読んでいる途中でいろいろなことを想像するわけで。それを見越して途中に用意されている細工も、実際にそんなことが可能かどうかは別にして、読んでいてドキドキさせられます。そういう意味で、ストーリー展開はみごとといって良いでしょう。まあ、最後はあんまり後味の良い終わり方じゃないんですけどね。  
 ただ、気になったのが、当初二人の主人公は、死刑囚が思い出した「階段」というのを、完全に家の中の階段として扱っているんですね。それも、主人公たちがそう思いこんでいるだけ、というよりも、作者自身の発想が、家の中の階段、という思想になっているような感じがしました。外にだって階段はたくさんあるだろうに、という気がして、少しひっかかってしまった部分です。  
 実際に「階段」がどこにあったか、ということは、読んで確認していただきましょう。おすすめです。  


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