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[ 小説の感想文のようなモノ ]
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小説「誘拐作戦」
都筑道夫著(創元推理文庫)
全国書店ネットワーク e-hon

2001.09.23

 犯罪を、犯人の側から書くという手法は、小説としてはそれほど珍しくないでしょう。それが犯人の手記の形式で書かれていたとしても、そういう作品はいくらでもあるはずです。でも、犯人のうちの二人が交互に、相手の書き方に文句をつけながら書いているとしたら、それは少し珍しい形式といえるかもしれません。そのうえ、その二人が登場人物中の誰と誰なのか、作品の最後になるまで明かされないとしたら、推理小説ファンとしては、それだけで興味をそそられて良いでしょう。そそられてください(笑)。  
 そのうえ、誘拐事件の人質は、話しが始まってすぐに死んでしまいます。それも犯人たちが殺したわけでもなんでもなく、犯人たちは、道に倒れていたけが人を拾って来ただけで、それがたまたま金持ちの娘で、そのうえたまたまその人物にそっくりな娘が知り合いにいたことから、その金持ちの娘を誘拐したような顔をして、親から大金をせしめよう、という計画を立てただけだったとしたら。  
 しかも、そんな変わった小説が、今から40年近くも前にすでに書かれていたとしたら。これはもうすごいとしかいいようがないでしょう。  
 都筑道夫という作家は、そういう作家なのです。変わった設定や凝った設定が好きで、常に先を行き過ぎている。  
 全編二人称形式の長編小説を書いてみたり、あたかもアメリカの作家が書いた翻訳もののような話しと、それを翻訳している人物の話とを交互に織り込む小説を書いてみたり。そのどれもを40年近く前にすでにやってしまっているのです。で、それらの作品は、今ではほとんど絶版になっていて手に入らない、と。  
 そういえば、先日草上仁の「スター・ハンドラー」という新作を読んだのですが、この本の著者紹介が秀逸でした。「著書多数。絶版も多数」と書いてあったのです。これは、作者本人が書いたのでしょうか、それとも編集者が書いたのでしょうか。どっちにしても、草上仁の本だなぁ、という気がしてきます。この「スター・ハンドラー」は、書店ではなかなか見つからないかもしれませんが、同じころに出た「よろずお直し業」は書店で探せばまだ手に入るかもしれません。興味がある方は是非読んでみてください。お勧めですから。って、だったらなぜ「感想文のようなモノ」を書かなかったのか、という問題もあるんですが(笑)。それは置いといて。  
 草上仁同様、「絶版多数」の都筑道夫ですが、今回この「誘拐作戦」が再刊されたおかげで、そのうちのひとつが久しぶり読めるようになったわけです。もちろんわたしははるか昔に中公文庫版を買っていて、何度も読み返してるんですが。ところが、久しぶりに発行されたくせに、非常に発行部数が少ないようで、ほとんど書店には置いてありません。なんでこんなに少ないんでしょう。  
 まあ、持ってる者としては「持ってるよぉん」と自慢できてうれしいんですけどね。気をつけないと、すぐにまた絶版になっちゃったりしますので、読みたい方は今のうちかもしれません。  
 さて、40年近く前の作品ですが、今読んでも古臭さはあまり感じられません。時代を感じるのは、物価の違い、風俗の違い、あたりの景色の違いぐらいでしょうか。ストーリーや各種設定は、まんま現代に話しを持ってきても、充分通用する内容です。  
 あとはまあ、登場人物たちの会話が多少古臭いかな。おそらく、当時としてはかなり粋な会話だったのでしょうが、今読むと少しマヌケ。というか、人によっては一部意味がわからないやりとりもあるかもしれません。でも、考えようによっては、今の若い人には新鮮にうつるかもしれませんが。  
 このおかしな誘拐計画は成功するのか。書き手のふたりは、登場人物のうちの誰と誰なのか。もちろん、読み終わった時点ですべては明らかになりますが、読んでいる最中にも楽しみながら読んでいられます。残念ながら本格推理小説の範疇には入りませんので、書き手が誰なのか、という明確なヒントは、作中には出てきません。でも、推理しようと思えばできなくもないでしょう。  
 最後の最後に出てくる、玉木刑事に関する問題点は、最初に発表された版では、回答は記載されていなかったということです。出版社を変えて二度目に発行するときに、内容にも大きく手を加えて、その時に回答も追加したそうですが、今回はその二度目の版がベースになっているようです。  
 相変わらず知る人ぞ知る、という感のある都筑道夫の、初期の作品ですので、都筑ファンならもちろん、ファンでなくとも是非一度お読みください。  
 ファンとしては、もっと新作を読ませろ、って気がしなくもないんですけどね(笑)  


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