縦書きで読む
[ 小説の感想文のようなモノ ]
この本は ここで 買えます
小説「ブレイブ・ストーリー」
宮部みゆき著(角川書店)
全国書店ネットワーク e-hon

2003.03.29

 さて、宮部みゆきの新作です。「模倣犯」以来の大長編です。  
 以前、宮部みゆきの作品は、ふたつの時代とみっつのタイプに分類できる、と書きましたが、この作品はそのどれにも属していない感じです。まあ、無理やり分類すれば、バックボーンになっている時代は現代、タイプはある種人情モノのノリと超常現象系、という分類ができるかもしれませんが、そんな無理やりな分類をしても意味がないでしょう。  
 ファンタジーです。思い切りファンタジーです。RPGの世界です。好きな人には思い切り楽しめることでしょう。  
 ただし、前半四分の一ぐらいは、普通に現代で話しが進みます。そこをもどかしいと思う人もいるかもしれません。逆に考えると、ファンタジーに慣れていない人でも、現代がしっかり書き込まれているので入り込みやすい、ということはいえるかもしれません。  
 余談ですが、この手の剣と魔法とドラゴンが出てくるファンタジーには、ふたつのタイプがあります。  
 まず、この作品のように、われわれと同じ世界に住んでいる主人公が、何かの理由で異世界に入り込んでしまって、そこで冒険を繰り広げるというもの。「ハリー・ポッター」なんかも若干これに近いかもしれません。  
 このタイプの便利なことは、主人公は読者と一緒で、異世界のことをよく知らないということ。そのために、その世界のいろいろなルールを、作者が読者に伝えやすいということでしょう。  
 世界には大きな大陸がふたつあり、その一方を北大陸、もう一方を南大陸と呼んでいて、北大陸にはこういう国家があって……。というようなことは、その世界の住人はすでに承知していることなわけです。でも、読者は知らない。だから作者は読者にそれを伝えなければいけないのですが、そのときに読者と同じ立場にいる主人公が便利に使えるのです。  
 つまり、その世界のことで読者が知らないことは、主人公も同じように知らないわけですから、作品の中で誰かが主人公に説明するような状況を作りながら、実際には作者が読者に説明することができる、と。楽です。  
 このパターンに対して、最初から異世界で物語が進むタイプもあります。「ロード・オブ・ザ・リング」はこれでしょう。  
 こちらは、主人公ももともと異世界の住人です。したがって、その世界のルールはすでに知っています。でも、読者は知らない。このギャップを埋めるために、作者はいろいろな手を使います。  
 たとえば、主人公もしくはその仲間に、世界をよく知らない者を入れておく、という手。子供あるいは辺境の地から出てきた者というのがよくある手です。その登場人物は、ほぼ読者と同じでその世界のことをよく知りませんから、他の登場人物がその登場人物に説明することで、作者が読者に伝えることができるのです。  
 あるいは、既に周知の事実として話しを進めてしまう、という強行手段もあります。たとえば、買い物をするシーンで、  
 「魚一匹が10ボンパは高いだろ!」  
 「しょうがないだろ、この十日ばかり魚が獲れなくなっちまったんだから」  
 ってな会話をさせれば、わざわざ説明しなくてもボンパが通貨単位だということはわかります。  
 中には、地の文に作者が出てきて読者に説明してしまう、という荒業が使用される場合もあります。  
 実はこの後者のタイプのファンタジーは、非常に難しいんですね。なにしろ、読者がその世界にうまく入り込めるかどうかが、ファンタジーのカギですから。  
 魚の年の竜の月の狼の日、アガラム皇帝はオボンジョに攻め入り、エベレンドからファタルコスを奪取した。  
 なんていきなりやられると、ファンタジー慣れしていない人は、パニックに陥って本を投げ出してしまう可能性があります。逆に、  
 ドドス宮殿は、まるで東京ドームのようで。  
 などと書かれると、ファンタジーフリークはしらけてしまいます。一番難しいのはその世界の生き物の描写なんですが。このあたりはみんな既存の生き物を利用する手段を使うようです。実際にはわけのわからん生き物が、あたりまえのように闊歩してる可能性もあると思うんですけどね。  
 しまった、感想を全然書いてないな。まあ、いつものことですが。  
 面白いです。特に後半になると、一気に読めちゃいます。  
 宮部みゆきは子供と老人を書かせると非常にうまいですから、その子供が主人公の物語は当然おもしろい。読む前に予想した通り、物語は「少年の成長の物語」です。  
 問題は、分厚いってことか(笑)  


Copyright(c) 1997-2007 Macride
ご意見ご感想は メール 掲示板
以下はみなさんからいただいた感想です
俺にも言わせろ!という方、自分の書き込みを削除したい方は